審査講評

テーマ:「中産階級の美学・再び」

審査員/古山 正雄 氏

 今回は、「中産階級の美学・再び」というテーマです。社会的な主題を一枚の絵で魅力的に表現するという課題ですが、理屈っぽいテーマなので、感覚的に把握しにくい。また造形的にも空間的にも、表現のヒントが得られにくい課題です。この困難な課題に取り組み、批評精神あふれる作品を寄せていただいた多くの応募者のみなさまに感謝いたします。 

 優秀賞に選ばれた三作品は、いずれも応募作品のある傾向を代理表象しています。 
久恒君の作品は、課題の趣旨を正面から捉え、住宅と死という深刻な主題を深いレベルで表現しています。社会的な主題を個のレベルで捉え直し、文学的な表現に至ったところを評価したいと思います。 
 続いて佐藤君の作品ですが、ホームレスの人たちの生態を力強く歌いあげています。単に明るいホームレスではなく、負け犬のホームレスでもなく、社会に向かって何かを表現しようとしているホームレスの姿が活写されており、中産階級から滑落した人々にも、自由、平等、友愛という近代社会の理念が必要であることを主張しています。 
優秀賞の三つ目は、秋吉君の作品です。秋吉君の主張は、豊かさの本質は、実は代わり映えのしないものであり、日常を見つめることによって見いだされるものであるという考え方です。ごく普通、チョー・フツウ、ここに生活の、住宅の本質があるという主張です。 
今回の提案のなかにも、安全、安心、幸せを絵にする工夫が多く見られたのですが、中でも秋吉君の作品は、勇気を持って端的に、フツウであることを表現していると思います。 

 応募作品は、特性や志向性によっていくつかに分類されますが、その中から代表的な作品を佳作としました。 
 佳作Aは、まち作りやコミュティを再構築するためのデザイン手法の提案です。
岸本君の案は、長屋を分割し、連続した個室へと分解し、再度モノを媒介として接続するというコミュニティ形成のシミュレーションを図化したモノです。分割と接着という操作性が図化されている点が興味深いと思います。 
 佳作Bは、社会派の作品であり、社会階層を端的に切り取って表現した作品です。 
山本君の作品は、現実に存在する一枚の擁壁に着目し、擁壁上部に展開する高級住宅地と下部に展開するバラックの街の対比から始め、巨大な擁壁を建築化することによって、時間軸によって階層間の拮抗を乗り越えていこうという提案です。実は、社会階層を取り上げた提案の殆どは、階層の上下感を空間の上下に置き換えて、両者が共生できるコミュニティを設計するものです。そのなかでも山本君の案は現実の風景に着目して、そこから計画案を提言している点が力強く感じられました。また、畠山君たちの作品は、ブルーカラーの家をデニムという素材一つで端的に表現しています。労働をテーマにした作品の多くが、複合住宅の設計であったのに対して、畠山君たち作品は、労働は人生の基盤であり、汗は裏切らないという主張が、最も切れ味良く表現されていたと思います。 
佳作Cは、社会的なテーマを個人の物語として、軽快なタッチで表現した作品です。 
瀬川さんの作品は、貧困層の家庭における子供のための空間の提案です。貧困層の子供への期待感という着眼点がよい。知の積層とは、子供を過酷な貧困から救うことが出来るのは読書であり、本の世界であることを素直に表す建築空間です。 

 佳作Dは、今後の健闘を期待したい作品です。建築や空間の提案というよりも批評的作品です。いずれも楽観的過ぎる嫌いはあるものの、メッセージ性が気になった作品です。 

 山口君の案では、低欲望社会という説明に共感しました。ダンシャリやミニマリズム或いは茶室を基盤とする作品を期待していましたが、予想に反して応募が少なかったのは残念です。徳永君の案は、超画一社会批判です。欠陥住宅こそ画一化を打ち破る鍵であり、消費者に困難な選択を迫ることによって現状を打破しようという若干ブラックなメッセージです。岡田君の提言は、サヴォア邸のコピーを世界中に等間隔に配置すれば、格差是正に寄与するのではないかという楽観的なメッセージです。ウンチャナム君の作品は、タイの日常空間とのんびり度がうらやましくなる図柄です。留学生諸君にエールを贈りたいと思います。

Profile

古山 正雄(ふるやま まさお)

京都工芸繊維大学  学長

京都生まれ
京都大学建築学科卒業
東京大学大学院都市工学専攻修了
工学博士 専門は都市論、建築論

1990年 京都工芸繊維大学 教授
2004年 京都工芸繊維大学 理事・副学長
2012年 京都工芸繊維大学 学長

[主な著書]

『壁の探求―安藤忠雄論』(鹿島出版社)、『安藤忠雄』(TASCHEN)、『造形数理』(共立出版)、『安藤忠雄 野獣の肖像』(新潮社)など。

2021年(令和3年度)

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