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審査講評

テーマ:「対比/対立のある住宅」

審査員/鈴木 了二 氏

住宅ほど調和が望まれる場所もないのを承知で、あえてそこに「対比/対立」を見出そうとするテーマは、ひょっとすると難しかったかなと、出題したあとで思ったが、そんな心配は、集まった多くの力作を審査会場で見るに及んで3万光年のかなたに飛び去った。

 現代というこの時代のなかで住宅の遭遇している事態への柔軟な批判性は、選ぶのも大変なほどの多くの作品から読み取ることができ、ぼくをワクワクさせるのに十分だった。しかも、鋭い問題提起でありながら、それを湿気った気分のなかに停滞させるのではなく、独創的なアイデアや、美しいイメージ、あるいは、思わず笑いを誘うウィット溢れる表現によって果敢にブレイクスルーしようとする快活さが感じられた。

 なかでも大賞と優秀賞に選ばれたふたつの案は、今回の課題に対して極めて対照的なスタンスをとっていたように思われた。この2案の隔たりが示す拡がりのなかに、あたかも現代の問題がすべて含まれるかのようであり、実際、提出されたどの案もほとんどその範囲内に含まれていた、とも言える。

 このコンペでは久方ぶりの大賞を獲得した北口+山下案は、人間の孤独と親密さとの関係に着眼して、住宅の原初に立ち返るような計画案を具体化してくれた。家具や事物の配置などに至るまで注意深くデザインされ、プレゼンテーションも繊細かつ秀逸で、一言では要約できないほどの多様な余韻をいつまでも残すという意味で大賞に相応しい作品であった。

 優秀賞となった長谷案は、今回のテーマである「対比/対立」を住宅の生存と死滅のレベルにまで拡張した、もっともアーティスティックな案であった。破壊されつつあるものを眼前にしてシニカルに構えるのではなく、それをあたかも新しい構築物であるかのように真っ正面から凝視し、さらにもう一度、緻密に構築し直すことによって、日常の表面には現れようのない住宅の、もうひとつの時間と空間に直截に届いている。

 入選の3案には、明快にこちらに伝わったとは言えないものの、あえて難しい問題に果敢に立ち向かった勇気ある作品を選んだ。

 青木+坂巻案は住宅に朽ちる時間を積極的に導入することによって生じる歪んだ世界を不思議なドローイングによって見せてくれた。柴山+向山案は内部と外部との関係を、ドアを蝶番にして反転させ、まさに身も蓋も無くした廃墟のような住居空間を提示する。田内案は現在の都市に棲むことの無根拠さと頼りなさを、表現自体のなんともいえないもどかしさをも含めて、誠実に定着している。

 佳作の7案も興味深いものばかりで、見るひとによっては、もっと上位でもおかしくないと思う作品もありそうだが、そこは審査員がひとりというこのコンペの美徳として笑って受け取っていただきたい。

 西村案は闇/光を対立項とはせず、溢れる光の横溢のなかにすべてを見出そうとする。西川案はメガロマニアックな巨大さと対比されることによって人間の小さな生活が際立っている。大西+大室案は絵本のような物語のイメージを、時代錯誤ぎりぎりの執拗なドローイングから読み取れる。橋本+辻+彌田案は家具や収納をただ移動させるだけでスペースの質を根本的に変えてみせる。曽我部+宮本案は舞台の仕組みを導入することによって生活のあり方そのものを定義し直そうとする。新案は思わず吹き出すような提案でありながら、でも、どこかリアルで単なるギャグには終わらない魅惑的な光景があった。田中+虎尾案は庭を異様に建築化することによって家の形骸を倒錯的に消滅させようとするかのようだ。

 以上は、なるべく多くの作品を選ぼうと苦心した結果であり、これら以外にもまだまだ手を出したい作品がありながらも、この辺りで諦めるほかなかった。

 ともあれ、ぼくは多くの刺激をもらったし、なによりエンジョイできた。応募してくださったみなさん、ほんとうにご苦労さんでした。

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