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奨励賞

elusive qualities

東野 真人

東京大学大学院 
工学系研究科 生産技術研究所

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  歴史を重んじる風なことを謳うことが、より現状を難しくする、ということを伝えたかった。

 現状の消費主義的な産物を悪とみなし、ただそれへのアンチテーゼとして歴史性を志向することは、次なる偽装の準備に他ならない。どうしようもなく思える現状をも、歴史として存在を認め、存在する価値に向き合ってこそ、未来において真に価値ある物を生み出す土壌ができる。

 どんな時代のどんなものも、記憶と空間が、その膨大さによって、温かいものに変えてくれる。ならば、どうしようもなく思える現状の都市も、歪みきった社会の構造も、いつかきっと、古き良き記憶の一部になってくれるのだろう。そう思えたことが、未来を見据える自分にとって、この上ない希望であった。

 だから、「歴史」を声高に謳って、資本主義に包摂させてはいけない。過剰な消費を抑えつつ、皆がただ静かに、自分の感覚とそれを通して見える物の価値に向き合っていく。そんな世界を夢見ている。

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