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研究報告要約

調査研究

3-128   長谷川 聡

目的

 寒冷地における冬季の生活では、降雪や路面の凍結といった大きな物理的障壁があり、誰もが慎重な歩行を求められる。それゆえ、冬季の生活では多くの生活者が自動車で外出するため、各商業施設等には多くの屋内駐車場が設けられているが、それでも冬季の来客数の多さには全く対応できず、大半は屋外駐車場を使用せざるを得ない。それゆえ、駐車場に積雪や路面凍結のある場合は、屋外に駐車してから店内に至るまでの歩行はもとより、買い物後の荷物をもちながらの歩行にはなおさら慎重な歩行や大きな労力を伴う。
このように歩行の制約を強いられる中、幼少児のいる家庭においては留守を任せる者がいない場合、幼児を連れ出さなければならず、買い物等の外出は大きな負担となっている。これは、自宅からベビーカーでの外出に限らず、自動車でも外出先の駐車場から建物に至るまででも同様な労力を要する。

 雪による悪路をベビーカーが走行するために、4輪タイプ向けの前輪のそれぞれに装着するスキー板状のアタッチメントの先行製品はある。これは、圧雪路向けのものである上、店内の出入り時にはアタッチメントを着脱や、付着した雪の除去を風除室で行わなければならない。雪の除去を疎かにすると、店内の至る所で雪が融け水浸しになり、他客の転倒を誘引してしまう。このような状況を解決する手立てを見付けることで、寒冷地冬季の過酷な環境における子育ての労力を低減させたい。
そのために、ベビーカー本体をそのまま載せることができ、商業施設等の内部空間で着脱することなく使用できるように、底面にベアリングを組み込んだボード型のアタッチメントが雪道走行に有効か検証する。

内容

 厳冬期におけるにおける雪道、アイスバーンといったベビーカーの走行は、過去に大学の演習における学生の発案がまとめられたものはあるが学術的な検証はない。
また、先行製品では、Wheelblades社(スイス)がベビーカー前輪用(左右別々)にスキー板形状のアタッチメントを製品化しているが「圧雪路面用」として使用環境を限定している。
本研究では、圧雪路面のみではなく新雪やアイスバーンといったあらゆる路面での使用も含めての走行試験を行う。

本研究は、以下のプロセスで進めていく。
①この研究で使用する一般的で実験に適したモデルのベビーカーを選定する。
②先行製品であるWheelblades社の雪道用アタッチメントの調査を行い、サイズ、材質、機構、構造等、細部
 まで検証する。
③上記に基づき、本研究で検証する試作の設計を行う。
④試作モデルを製作する。
⑤以下、3通りの走行試験を雪道で行い比較する。
 ❶何も装着していないベビーカー
 ❷Wheelblades社の雪道用アタッチメントを装着したベビーカー(前輪のみ)
 ❸試作モデルを装着したベビーカー
⑥結果を検証した上で最終モデルを設計し走行試験を雪道で行う。
⑦走行試験の結果を元に必要があれば最終モデルに手を加え、最終の走行試験を雪道で行う。
⑧ここまでで得た結果を元に、報告書を作成する。
⑨報告書を元に論文を執筆、最終モデルは産業見本市やメディアで発表を行う。
 

研究の方法

本研究の方法は、以下の通りである。
事前準備
1)ベビーカー用雪道アタッチメントの先行製品調査。
2)先行研究調査

本研究
1)ベビーカー機種選定を行う。
 4輪タイプでボード型アタッチメントを装着しやすいモデルとする。
2)先行製品(Wheelblades社の雪道用アタッチメント)を測量し、同製品の材質、装着方法を検証する。
3)ベビーカーのパーツを測量し、装着箇所、装着方法を検証する。
4)簡易試作モデルを製作する。
5)走行試験を行い、3通りの走行試験を雪道で行い比較する。( 広島県山県郡北広島町にて行う。)
6)1回目の走行試験での成果を確認し、最終モデルの材質や製作方法を検証する。
(展示会等に出品できる仕上のものとして検討する。)
7)最終モデルを製作する。
8)2回目の走行試験を行う。(ユーザーを想定している降雪量の多いエリアとして北海道札幌市で行う。)
9)ユーザー評価試験を行う。(ベビーカーメーカーの札幌エリア担当者による。)
10)第2回の走行試験での結果をもとに最終モデルの改良を行う。
11)3回目(最終)走行試験を行う。
12)結果を取りまとめ、報告書を作成する。
 

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結論・考察

第一回走行試験(3通り)
2022年3月7日/広島県山県郡北広島町:「小締まり雪」
幼児を想定した6kgの重石をベビーカー座面に搭載
❶何も装着していないベビーカー
❷Wheelblades社の雪道用アタッチメントを装着したベビーカー(前輪のみ)
❸試作モデルを装着したベビーカーの3通りの走行試験を行っ
結果
❶全く走行することはできなかった。
❷前輪が雪上の表面形状の凹凸を拾いがたつくが、走行することはできた。
❸一枚板のため、雪上の表面形状の凹凸にも全く影響を受けず走行できた。
コロナ禍により行動の制限もあり、次年度まで研究期間を延期して検証することとなった。

第二回目の走行試験
2022年12月25〜27日/北海道札幌市中央区大通り西3丁目:「締まり雪」
本アタッチメントを必要とするユーザーが生活する頻繁に雪の降る北海道札幌市で実施。
客観的な評価・意見を得るための実験者
ベビーカーメーカーの北海道地域男性担当者及び、実際に子育てをされている新聞社女性記者
結果
❷前実験同様、前輪が雪上の表面形状の凹凸を拾いがたつくが、比較的安定した走行をすることはできた。
❸前実験同様に問題なく安定した走行ができた。
 横滑りが気になる。(ベビーカーメーカー担当者)
 金属製のボールベアリングは、タイル材や石材仕上げの床面ではかなり大きなノイズが生じた。

第三回目の走行試験
2023年1月24〜25日/広島県広島市南区松原町3丁目,安佐南区安東6丁目「湿り雪」
結果
ボード型アタッチメントの本体高さは75mm程の高さであるが、この高さを超える90mmの「湿り雪」の新雪では、
ボードとベビーカーの自重で走行しながら徐々に沈み込んでしまい、沈み込んだところで止まってしまい、
その都度、ベビーカーを持ち上げ、再度、ベビーカーを押し進めるが、この繰り返すこととなった。
様々な素材を検証して選択したが、アタッチメントの先端が新雪に沈み込んでしまったことは、
FRP製の本体がかなり重くなってしまったことが一因であると考えた。
改良
アタッチメントの先端が新雪に沈み込まないように、ボードの先端の立ち上がり部分を、倍の高さ(150mm)
になるように、75mmのアタッチメントトップを製作。
走行で生じるノイズ低減のため、樹脂製のベアリングを採用。

第四回目の走行試験
2023年2月19〜22日/北海道札幌市中央区南6条西1丁目、2丁目「湿り雪」
結果
雪道の雪の状態は100〜200mmの「湿り雪」の新雪のある人の歩行で荒らされていない地点で行った。
100mm程度の積雪面では、この実験で用意した75mmのアタッチメントトップを装着することで、10〜15m走行距離を進めた。
それ以上は手押しで進めることはできず、沈み込んだ本体全体を再度、雪道上に持ち上げ、前回同様にこの繰り返しを行うこととなった。

ベビーカーをの押し進めることでアタッチメントボードのトップで、前方の雪が締め固まってしまうため、
その押し進める本体の左右にうまく雪を捌けることができない。
ここまでの結果から、降雪後時間が経ち、表面がある程度固くなった締まり雪のような雪道であれば、ボード型のアタッチメントは
大きく効果が現れるが、本体が沈み込むような柔らかい雪上では、新雪が20〜30mmなどまでが限界であると考えられる。
ブルドーザーのように機械で大きな力で押すことができれば何も問題がないが、手で新雪を捌けるには、人力では限界があるため、
どのように前方のトップ部分で雪を左右に掻き分けることができるかは大きな課題となった。

この研究で考えたボード型のベビーカーアタッチメントは、スキー板やスノーボードの延長のものとして着想し検証を行ったが、
そもそも、スキーもスノーボードも高さのあるところから、その位置エネルギーにより滑走することで動力を得ている。
そして、スキーもスノーボードも、高い技術力をもった者でない限り、深く積もった新雪面を滑走することは難しい。

しかし、本研究でも雪道は様々なコンディションであったように、その雪質、降雪厚は常に区々である。
降雪地の生活上、どのような条件の組み合わせの時に本アタッチメントが必要、且つ、有用であるかを見極めて検証する必要が重要である。
スキーで上級者が滑走性をよくするためにワックスがけするように、アタッチメントボードの滑走面の潤滑さや、雪の状態による付着力を
検証することも必要であるが、この細かな効果を計測するには、科学的な検証を行う測定方法の確立は、寒冷地の目まぐるしく変わる
外部環境で使用する測定装置等の組合せによるロス等を考慮し、その実際値を測定する方法の確立は、この先の大きな課題でもある。
因みに、本研究は、アタッチメントの形状や構造の違いといった、大きな相違が表れる形で有効性を検証するものである。

現段階では、本研究ではFRP製で重量の嵩む材質で製作したが、アルミニウム製で軽量化できれば重心が上がることで、現状より負担軽減が
現状より負担軽減が期待できるため、引き続き検証する価値がある。

そして、このベビーカー用のボード型アタッチメントは、大きな面積で雪道に接する形で走行するが、これよりも雪道に接する面積が
かなり小さいスーツケースであれば、寒冷地の降雪時期に訪れる旅行客が抱える雪による負担を軽減することが期待できる。
 

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英文要約

研究題目

Research on attachment sliding boards for both indoor and outdoor 
use to improve stroller travel and safety on snowy and icy roads

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

SATORU HASEGAWA 

YASUDA WOMEN’S UNIVERSITY 
FACULTY OF HUMAN ECOLOGY
DEPARTMENT OF AESTHETIC DESIGN AND TECHNOLOGY

本文

Winter living in cold regions presents significant physical barriers, such as snowfall and icy road surfaces, and requires everyone to walk carefully.
Therefore, when there is snow or icy roads, walking from outside to inside the store, as well as walking with luggage after shopping, requires careful walking and a great deal of effort. 
With such restrictions on walking, families with young children are forced to take them out for shopping and other outings when there is no one left to take care of them. 
To this end, we will verify whether a board-type attachment with a built-in bearing on the bottom is effective for driving on snow-covered roads, 
so that the stroller body can be placed directly on it and used without having to be attached and detached in interior spaces such as commercial facilities. 
Although there are prior products for pressured snow surfaces, In this research, driving tests will be conducted not only on compacted snow surfaces,
but also on all types of surfaces, including fresh snow and ice.  Four driving tests were conducted in Sapporo, Hokkaido and other cities.
The board-type attachment is highly effective on snow-covered roads with compacted snow where the surface has hardened to some extent after a snowfall, 
but on soft snow where the main body sinks, the limit is considered to be up to 20 to 30 mm of fresh snow.
In fresh wet snow, the stroller could not handle snow well on either side of the body because the top of the attachment board tightened the snow
in front of it as the stroller was pushed forward
In this study, there were a variety of conditions, but it is important to determine what combination of snow quality, snow thickness,
and other conditions are necessary and useful for life in snowfall areas.
Even at the present stage, if aluminum is used to reduce weight, the center of gravity will be raised, which is expected to reduce the burden compared to the current situation. 

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