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研究報告要約

調査研究

4-126

目的

渡邊 剛

【背景・課題】─サンゴ礁に覆われた島の環境と現在の問題

 奄美群島喜界島は約12万年の時を経て海底のサンゴ礁が隆起してできた島である。現在も島の周りはサンゴ礁に囲まれ隆起し続けており、島全体の地質もサンゴ礁由来の石灰岩で構成されている世界的にも極めて特殊な性質の大地である。
 例えば、サンゴ礁由来の石灰岩は多孔質で水はけが良いため島には川が存在せず、代わりに断層から溢れる湧き水や豊富な井戸水を依り代に集落が構成されており、加工しやすい石のため風よけの石垣はすべてサンゴで構成されていたりなど、他には見られない特殊な風景が広がっている。また、ミネラルが豊富なその地質はサトウキビの成長にも寄与し、食文化に繋がる側面もある。
 しかし近年、地球温暖化等の影響でサンゴに変質が起こり、海の生態系の変化が懸念されている。それに対してこの島には7年前に喜界島サンゴ礁科学研究所が設立され、国内外から地質学や海洋学等を専門とした人材が集まっており、「サンゴ礁を100年後に残す」という目標のもと研究に取り組んでいる。
 またこの島の集落では、人口減少による労働力不足や経済的な衰退により、昔ながらの石垣の保存や空家の維持が難しくなっているような問題が起こっている。


【目的・意義】─海と陸の両側の視点から考える

 サンゴ礁という特殊な地質が全体を覆っているこの島では、

 1)地球温暖化等によるサンゴの変質とそれに伴う海の生態系の変化、
 2)気候変動や人口減少による人間社会の衰退

という、海と陸地がそれぞれ抱える問題が連続的に影響し合っている。
 本研究の目的・意義は、地球環境や人間社会の変化に対して、海と陸が共生していくための持続可能な集落や海辺の在り方=建築の周辺環境のデザインの方法を模索することである。

 今回のフィールドワークは本研究における第一回調査である。よって今回は、島全体の地質と集落、畑、森等の大きな配置関係を調べ、加えて局所的な視点として、昔ながらの形式が残っている古民家の実測とヒアリング調査を実行する。

内容

【本研究の独創性】─サンゴ礁科学と建築学の共同

 海においてはサンゴ礁科学が、陸においては建築学や文化人類学のような領域において個別の既往研究はあるが、本来はひとつながりである海と陸地の両側を横断するような視点の研究は少ない。本研究の独創性は、サンゴ礁科学と建築学の研究者及び学生が共同で調査・議論をし、さらにそれを住民に開いていくことで、海と陸を一体的に捉えながら、人と自然が共生する未来について模索するところにある。

研究の主軸はフィールドワークと模型制作である。

まず、フィールドワークでは、喜界島の集落を訪れ、歴史的な建築物や地形の特徴、地元の文化との関係性を詳細に調査する。

建築学の観点からは、集落の形成における地形条件や気候の影響、伝統的な建築技術の活用などに焦点を当てる。建築物の配置や構造、住居の設計にどのような地域の特性や環境要因が影響を与えているのかを分析・考察する。

一方、サンゴ礁科学の観点からは、島全体の地質の分布や地形の特徴について、どのような背景で形成されて今にいたるかを、島全体の模型を製作するとともに島内でジオ・ツアーを敢行し、立体的・時間的に島を観察し、その共有の場をつくる。
島の模型は海底-200mから連続して製作し、また、海水面の変化予測の映像や、集落、森、畑の分布、井戸や地下水脈の位置等を模型に投影し、多角的な観点から島を分析する。

このような共同実践の研究には、建築学とサンゴ礁科学の専門家や学生、地元の住民が協力し、異なる専門分野の知識と視点を融合させることが重要である。海と陸地の一体的な捉え方や人と自然の共生を追求しながら、喜界島の未来について模索し、持続可能な社会の構築に向けた貴重な成果を生み出すことを目指し、研究を続けている。

方法

【研究手法】─模型制作を媒介にした研究者と住民のワークショップ

 本研究における具体的な手法は、下記の通りである。
 すべての作業はサンゴ礁科学と建築学の両方の研究者及び学生によって行われた。

1)集落の民家や石垣の実測調査・材料の成分調査・湧き水や井戸の分布調査・地盤調査等
2)住民へのインタビューによる集落の環境調査
3)島全体や集落単位を模型化し、建築学的調査とサンゴ礁科学及び地質学調査による情報をプロット
4)情報が集約された模型をもとに、過去の集落の構成原理を分析する
5)模型を取り囲み研究者・学生・住民の間で意見交換を開き、これまでの島の記録を振り返りつつ、集落の環境デザインの在り方について議論するワークショップを開催
6)空家の利用、石垣の保存・修復等を含めた空間設計を提案する

上記のような建築学的アプローチに加えて、海水面の上昇や地球温暖化によるサンゴ礁環境の未来予測による地質学的・海洋学的な時間・空間のスケールを取り込みつつ、統計・図面・模型等の資料作成を行い、建築の周辺環境の持続可能な在り方を模索した。
今年度はコロナ禍の影響もありすべてを島内で実施することは難しかったが、3,4,5については実施することができた。


【実施スケジュール】

 本研究は、私たち共同研究者に加えて、インターンシップとして募集する建築学生と、喜界島サンゴ礁科学研究所に滞在する研究者及び学生の共同によって行われた。

2022年4-6月:既往文献等の予備調査

2022年7月:学生インターンシップの募集
      フィールドワーク及びワークショップの計画
      研究者と学生によるオンライン共同ゼミ
      フィールドワーク及びワークショップの計画
      地図・ダイアグラム・模型表現の調査及び検討
      サンゴ礁科学の既往研究調査

2022年8月:喜界島サンゴ礁科学研究所に滞在(2週間)
      集落の実測調査・住民のインタビュー及び記録
      模型ワークショップの実施・記録(写真・映像の撮影)

2022年9-12月:調査のまとめ / 地図・ダイアグラム等の資料作成 / 写真・映像の編集

2023年1-3月:報告書の作成

結論・考察

【島模型の制作およびワークショップによる成果】

島模型を作るうえで、
①集落の分布
②森の分布
③畑の分布
これらの要素が特に重要視された。

まず、①集落の分布については、
透水性の高い地盤で島全体が覆われ、川がないかわりに地下水脈が豊富という観点から、

段丘から地下水が染み出す位置、井戸から地下水をくみ上げられる位置、このどちらかの条件の場所に集落が分布しているということが模型上で可視化された。

次に②森の分布については、
段丘から地下水が染み出す=水が豊富な位置、急斜面のため人工的な土地利用がしづらい位置、この両方を満たす場所が結果的に森になっていることがわかった。

③畑の分布については、
①と②以外の場所がほぼ埋め尽くされて畑となっている。
これは喜界島全体が平坦であり、かつ地下水が豊富であり、ミネラルが豊富な土壌であることが関係していると考えている。

以上の考察について、模型に映像を投影しながら、住民をも巻き込みながらワークショップをし、議論することができた。


【古民家の実測による成果】

荒木集落の「ウヒヤ」という屋号の古民家を、建築、外構とともに実測し、平面図、立面図を制作した。

喜界島の集落の民家には定型の配置関係があり、矩形のボリュームがLのような配置でつながり、客を迎え入れるウムティ、水回りや収納がある裏手のネースーに分類される。

また、外構の石垣や灯篭、井戸、芋を洗う器等の造作はすべてサンゴの石灰岩から加工されて作られている。


【次年度以降の展望】

次年度以降では、制作した島模型を引き続き利用し、投影する映像データを増やしながら、より多角的に島を分析していきたい。
また、集落単位でのフィールドワーク・模型制作を通じ、より小さいスケールで個々の集落を調べていきたい。
加えて、高倉や石垣等の島特有の建築的な様式にも着目し、より詳細に分析していきたい。

英文要約

研究題目

Study on Settlements and Coral Reef Formation in Kikai Island, Amami Islands

Collaborative Practice of Architecture and Coral Reef Science with a Focus on Fieldwork and Model Making

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Tsuyoshi Watanabe, Lecturer
Department of Earth and Planetary Sciences, Earth and Planetary System Science ,Hokkaido University

本文

Kikai Island is a unique geological island formed by the uplift of coral reefs on the seabed. However, it is facing problems such as coral degradation due to global warming and decline due to population decrease. The Kikai Island Coral Reef Research Institute has been established to address these issues from both the perspectives of the sea and land. In this study, we explore sustainable village and coastal design methods that promote coexistence between the sea and land. Through fieldwork, we investigate the geological features of the entire island and the spatial arrangement of villages. We also conduct on-site measurements and interviews of old houses. This innovative research integrates the perspectives of the sea and land, emphasizing collaboration between researchers and residents through model making and workshops. The creation of an island model and on-site measurements of old houses have revealed various elements such as the distribution of villages, forests, and fields. Discussions have been held using the model during workshops. Detailed information about architecture and landscaping has been obtained through on-site measurements of old houses, leading to the creation of floor plans and elevations.

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