研究報告要約

調査研究

31-134

目的

陶器 浩一

竹は極めて強い繁殖力・再生力を有し、資源として枯渇する心配がほとんどない材料である。日本を含むアジアでは古来より身近に親しまれてきた植物であり、生活の様々なところで竹が用いられてきた。しかしながら、石油系の代替品にその居場所を奪われ、放置された竹林はその繁殖力が故に里山などを犯しており、“放置竹林問題”は社会問題になりその対策が求められている。
 近年は環境意識の高まりに伴い、竹を原料としたナノセルロースファイバーの開発など竹を新素材として活用する試みや、建材の脱石油化の動きに伴って金属・プラスチック建材を竹に置き換える動きも高まっている。一方、竹は木材の10倍近い(鉄の1/3)の引張強度があり、自然素材としては極めて強度の高い材料特性を有しているが、この特性は工業製品としてはほとんど利用されていない。
 日本では元々、竹の利用は籠や釣り竿などの道具としての利用がほとんどであり、建築用材としても竹小舞などの利用に限られていた。
 
 研究代表者は、竹を主構造材とした建築で、わが国で唯一建築確認(7年半の仮設建築許可)を得た仮設建築(「竹の会所」)を東日本大震災の被災地で実現させている。また、構造材としての竹材の材料特性およびその決定因子を明らかにし、竹構造建築の設計施工方法と併せて学会等で発表すると共に、建物の構造特性および材料特性の経年変化について継続的に調査研究を行っている。(「竹材を用いた災害時の仮設建築物の設計・建設技術確立を目的とした、竹材の架構方法の開発」で、2013年度にユニオン造形文化財団研究助成を受け、その後、科学研究費助成(基盤B)を得て研究を発展させている)。共同研究者は、国内唯一の竹突板(厚さ0.25㎜の竹薄板)製造技術を持つ企業経営者であり、独自の技術をもって特徴ある竹建具や内装材の製造を行っているほか、その製品は鳥人間コンテストのグライダー機体(優勝)や高級自動車(レクサス)内装材として利用されるなど、竹を用いた新たな工業製品を開発している。

 今回開発するものは、それぞれの技術と知見を融合させた、竹材の材料特性を最大限活かした極めて繊細なスケールの新たな建築構造・構法であり、それによって生み出される空間はヒューマンスケールで自然の暖かみのある独特のものであり、今までに例のない「新たな和風建築」であるといえる。
 また、本構造の設計手法は設計・施工基準として確立し、一般に利用できるものとする考えでいる。大きな設備投資をすることなく安定した品質を持つ工業製品として竹を使用することができるので、一般化・普及化が可能である。建築材として多く用いられるようになれば、竹の有効利用につながり、ひいては放置竹林問題や低炭素社会の実現にも貢献できると考える。

内容

竹はしなやかで強度のある素材として家具や道具、籠などに利用されてきた。海外では建築材料としての基準が整ってきてはいるものの、日本においては基準がなく、実大建築の設計、施工が一般化されていない。本研究では、実大建築を設計するために必要な項目を明らかにし、実験・調査を行ったうえでモデル建築の試設計及び施工、プロトタイプの提案までを行う。
今回計画しているモデルは、割竹を挽いて平らにした薄平板(厚さ4㎜幅30㎜)、およびそれを積層した30㎜角材を主材料とするものであり、「30㎜角材による三方格子」による軸組みと「薄平板を格子状に組んだシェル屋根」による建築である。
屋根構造はこの薄板のみで構成する。薄平板は高い強度を持つと共にしなりやすく、しなりやすい特徴を活かして曲げながら格子状に重ね合わせてシェルを形成する。これにより、極めて薄くて、大きな剛性・耐力をもつ屋根を形成する。
軸組みを構成する「三方格子」とは、研究代表者が開発した構法で、一定の間隔で相欠き加工だけを施した角材を三方向(立体的)に組み上げてゆくものである。欠き込みを1/2ずらせて組んでいくのがポイントで、釘も金物も用いず手作業で組み上げることができる。同じシステムの展開なので連結・展開してゆくことができ、解体や移設も自由にできる。
 この「三方格子による軸組み」と「薄板格子シェル」の組み合わせにより、極めて繊細なスケールで建築構造を実現することができる。屋根・軸組みとも、金物は一切使用してないことも特徴である。

 本研究では、まず竹集成材の要素となるラミナの基本的な材料特性と乾溜処理による影響を調べ、三方格子架構の構造特性を把握するための実験を行う。ここでは、設計段階に必要である接合部における強度と有効な組み方を決定するため、仕口部曲げ実験を行う。

 モデル空間の試設計では、竹の“しなる”という特徴を活かして、可撓性があり、かつ、復元力を有するため、柔らかく滑らかな曲線を描く空間を創出することを可能になる。
 本研究では、素材の特徴を活かした展示スペースの空間構成を行い、設計施工を行った。レシプロカル構造を普段とは逆の方向に組み、竹がしなって戻ろうとする復元力により、相互依存の関係が成り立つようなシステムとし、また、このシステムをユニット化して行うことにより、割竹のような小断面かつ短材による架構空間の形成を可能とした。
 プロトタイプの提案では、竹集成材を板状に切断した竹集成挽板でつくるドーム空間を考案した。小断面の竹集成挽板を湾曲させることで、ユニットを作成し、ユニットをくみ上げることでドームを構成する。軸組のフラードームと同じ構成であり、材本数も特殊な場合を除いて同一であるシステムとしており、ユニット同士を単純な方法で接合し、ドームを作ることが可能であり、システム化されたユニットは、フレキシブルな空間を設計することが可能である。

方法

研究は以下の手順で行う。
①部材接合部性能確認試験及び解析的検証
-1:竹集成角材(30㎜×30㎜)による三方格子架構の仕口接合部曲げ試験
-2:板材(4㎜×30㎜)の構造性能試験
②モデル建築の試設計および設計法の確立
③プロトタイプの提案

①-1 竹集成角材(30㎜×30㎜)による三方格子架構の仕口接合部曲げ試験
 試験体は、炭化処理された竹ラミナを30mm角に成形した竹集成材とし、相欠き部分は機械でプレカットした。 試験体は、ラミナの積層方向に相欠きがあるものと幅方向に相欠きがあるものの2種類に分類し、さらに、三方格子は組み方によって力のかかり方が異なるため、2種類の組み方に分類して試験を行う。
試験は十字曲げ試験とし、加力方法は試験体の縦材頂部を、変位制御で試験機側を正方向として以下のスケジュールで行う。
・1/450, 1/300, 1/150, 1/100, 1/75, 1/50, 1/20, 1/15を3サイクル
・1/10を1サイクル
・1/7を片押し

①-2-1 板材(4㎜×30㎜)の構造性能試験
1:竹ラミナの引張強度試験
竹集成材のラミナと、竹集成材を板状に切断した竹集成挽板の引張強度試験を行った。ラミナは比較対象として試験を行い、既往研究の青竹の引張試験の結果も含めて3種類の結果を比較する。
試験は万能型試験機を用い、単調載荷により行った。試験は試験体が破損し、耐力の著しい低下が認められた時点で終了とし、最大荷重を記録した。試験体が試験機との接触部分で破損することを防ぐため、試験体に補強材を接着した。
2:乾溜処理が竹ラミナの材料特性に及ぼす影響
防虫処理のための乾溜処理が竹材の材料特性に与える影響について明らかにする。本研究では、表1の一覧および検討項目をパラメータとして試験を行う。
試験体に使用する竹は、大阪府岸和田市で伐採した孟宗竹、地面から1mより上の位置で約2500mmごとに切断して用いる。なお、伐採する竹の直径は100mm 以上として、それより直径が小さい材は使用しない。
竹の乾燥後、8~10割に割り(割竹)、割竹の内皮と外皮および節部分を切削機によって削ぎ取った一次加工材を機械により肉厚4㎜、幅25㎜、全長2200㎜に加工した竹ラミナを用いる。
乾溜処理の有無による材料の構造性能を等しく評価するために、1本の丸竹(自然竹)を8~10割にした際に、半分(約4本)を乾溜未処理の試験体用、もう半分を乾溜処理後の試験体用に分類した

①-2-2 板材(4㎜×30㎜)の構造性能試験
 本研究では、竹ラミナを対象に、乾溜未処理と乾溜処理後の曲げ強度、引張強度、せん断強度の把握と、強度増減原因の考察を行う。乾溜未処理の試験体と乾溜処理後の試験体の材料性能について、「含水率」「比重」「断面組織」の3 項目をもとに比較・分析を行う。

②モデル建築の試設計および設計法の確立 竹集成材を用いた建築に向けて、モデル建築の試設計を行う。モデル空間の設計、施工に関しては竹の素材の特性を最大限に活かした空間構成とし、用途としては竹の研究を紹介する展示スペースとして計画を行う。

③プロトタイプの提案: 竹集成材ラミナを用いた建築空間の提案を行う。構造システムとして、実用可能性のある案を考え、基礎や接合部のディテールの設計からモックアップを行い、竹集成材の特徴を活かした建築の基礎的なプロトタイプの提案を行う。

結論・考察

①-1:竹集成角材(30㎜×30㎜)による三方格子架構の仕口接合部曲げ試験
 実験より得られた荷重、変位の値から曲げモーメント(kN*m)と変形角(rad)を抽出し、最初の立ち上がり計測点を繰り返し点まで結ぶ。その後、繰り返し加力の最大点を結んで縦軸曲げモーメント(kN*m)と横軸変形角(rad)のスケルトンカーブを作成する。得られたスケルトンカーブと完全弾塑性モデルから降伏耐力及び終局耐力などの特性値を算出する。
 試験結果から、三方格子架構を用いた建築構造を設計する際に必要な復元力を得ることができた。
①-2:板材(4㎜×30㎜)の構造性能試験
1.竹ラミナの引張強度試験
竹ラミナについて、節を含まないラミナの引張強度は青竹と同様に維管束面積によって支配される。また、節あり試験体の耐力は節なしに比べて約20%耐力が低下する。ラミナの引張耐力は割竹より低くなるが、これは加工時に維管束面積率の高い外皮部分を切除するためだと考えられる。竹集成挽板の耐力は、ラミナ節ありと節無しの中間の値を示す。
2:乾溜処理が竹ラミナの材料特性に及ぼす影響
本研究では、竹ラミナを対象に、乾溜未処理と乾溜処理後の曲げ強度、引張強度、せん断強度の把握と、強度増減原因の考察を行った。
乾溜未処理の試験体と乾溜処理後の試験体の材料性能について、「含水率」「比重」「断面組織」の3項目をもとに比較分析を行った。含水率では約10%低減し、比重では約22%低減することが確認できた。また、断面組織の観察から、維管束の色合いと柔組織部分に影響があることが分かった。
曲げ強度試験について、結果から分析を行った。最大曲げ応力度について、乾溜処理の有無による曲げ性能の違いは見られないが、種類別では、乾溜処理の有無に関わらず、外皮圧縮側が外皮引張側に対して約27%高くなっていることが確認できた。
 引張強度試験について、含節試験体の引張強度は、乾溜処理の有無にかかわらず、節部分の引張性能に支配されていることが確認できた。最大引張応力度を乾溜未処理と乾溜処理後で比較したところ、乾溜処理を行うことで、約18%応力度が低下することが確認できた。非含節試験体において、最大引張応力度を乾溜未処理と乾溜処理後で比較したところ、乾溜処理を行うことで約19%応力度が低下する。
せん断試験について、最大せん断応力度を乾溜未処理と乾溜処理後で比較したところ、乾溜処理を行うことで、全体平で約33%応力度が低下することが確認できた。せん断破壊は、維管束繊維と平行方向に裂けるかたちで起きるため、乾溜処理によるせん断性能の低下が見られたのは、柔組織が乾溜処理によりもろくなったからではないかと推察でき、これは断面組織の観察結果とも整合する。
②モデル建築の試設計および設計法の確立
 三方格子による組木架構と板材による空間の適用として、展示スペースの制作を行った。これはイベントにおける研究室紹介の場として、竹と木を用いた展示スペースの制作を行ったものである。イベントに訪れた人々がただ通り抜けるのではなく、時々立ち止まりながら展示を見られるように配置を計画した。モデル建築設計に際し、竹の特徴を活かした空間構成を行った。レシプロカル構造を普段とは逆の方向に組み、竹が戻ろうとする復元力により、相互依存の関係が成り立つようにした。また、このシステムをユニット化して行うことにより割竹のような小断面短材による架構空間の形成が可能となった。
 ユニット自体は、ずれ止めとして接合部に番線を用いた単純な施工方法を用いており、素人による施工で空間を創出することが可能になっており、容易に手に入れることが可能な竹を用い、特別な機械を使用せずに空間が創出できる。
③プロトタイプの提案
竹集成材を板状に切断した竹集成挽板でつくるドーム空間。小断面の竹集成挽板を湾曲させることで、ユニットを作成し、ユニットをくみ上げることでドームを構成する。
 Engineering Bamboo Dome は、軸組のフラードームと同じ構成であり、材本数も特殊な場合を除いて同一である。しかし、フラードームでは5もしくは6方向から伸びた材を特殊な金具などを用いて接合する場合が多いが、このドームでは湾曲させたユニットで構成するため、ユニット同士を単純な方法で接合し、ドームを作ることが可能である

英文要約

研究題目

Development of new structural systems and distinctive architectural designs that maximize the material properties of bamboo

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Toki Hirokazu
The University of Shiga prefecture / professor

本文

The new structure and construction method developed in this project is a fusion of the technologies and knowledge of each party, and makes maximum use of the material characteristics of bamboo. It can be said to be a "new Japanese-style architecture" that has never been seen before.
 The design method of this structure will be established as a design and construction standard and made available to the general public. Since bamboo can be used as an industrial product with stable quality without large capital investment, it can be generalized and popularized. If bamboo is widely used as a building material, it will lead to the effective utilization of bamboo, which in turn will contribute to the realization of a low-carbon society and the problem of neglected bamboo forests.
In this study, in order to design a full-scale building, material tests were conducted on glued-laminated bamboo as a structural material, the effect of dry distillation treatment on the material properties of bamboo lamina, and joint bending tests of a "Mikatakoushi" made of glued-laminated bamboo. The results were then used to design and construct a model of a reciprocal structure and three-way lattice wall that utilizes the properties of bamboo, and to propose a prototype dome using laminated bamboo laminae to connect the units together. The results are discussed and future prospects are discussed.