研究報告要約

調査研究

2-128

目的

中谷 礼仁

本研究の対象であるシェーカー教は、18 世紀末から 20 世紀初頭のアメリカの開拓運動とともに活動したキリスト教の一派である。 彼らは男女の接触を禁止する戒律や、身体を震わせて神に祈る礼拝など特異な生活様式を持ち、一般社会からは迫害を受けた。そんな中でもシェーカー教は、デザイン活動によって彼らの教義を実践し続けた。本研究は、シェーカー教徒の実際の生活や共同体の運営方法を復元するため、歴史小説であるJanice Holt Giles著『The Believers』(1957)の翻訳および関連する一次資料の読解を含む関連調査を行い、シェーカー教徒の生活の様子や共同体の実態に関する研究の数少ない日本語資料として、それらの成果を段階的に広く公開していくことを目的としている。シェーカー教は自分たちの理想とするコミュニティーを200年以上運営し、それは、生活と一体である毎日の労働や仕事、礼拝活動と、そのために使用される道具や家具、建築における洗練された特有のデザインや技術にも反映されている。このような共同体について研究することは、これからの、共同生活を行う人々のスタイルや、生活に用いられる道具や家具、建築のデザインのあり方を構想する上でのより良い材料、端緒となりうる。本研究会では、シェーカー教の共同体がデザインした道具や家具、建築物を、宗教的な教義や共同体の規律によって規定された生活と切り離さず、一体のものとして捉え研究を行う。さらに、関連調査を通じてシェーカー教のデザイン論と一般的なアメリカの共同体史や工業発展史、住宅建築史との比較を行い、より客観的な視点からの分析と考察といった成果を公開する。

内容

2020年度の研究では、文献や資料を対象とした翻訳研究と、それらの成果のweb公開作業を進めた。このうち翻訳研究に関して、アメリカの著述家Janice Holt Gilesによりシェーカー教を題材にして書かれた小説『The Believers』を対象に行った。現在、全24章の翻訳が完了している。また、それに付随して翻訳文の訳註となるような、用語やシェーカー教の生活に関する調査を行った。さらに、小説読解を補助するためシェーカー教の国家や宗教における立ち位置を理解し、慎重な訳語検討を進めた。その後、研究成果公開のため、過去の翻訳研究の内容を更に発展させ、追加調査を実施した。それらは、用語の解説などにとどまらず、当時のアメリカの歴史背景や共同体の組織形態の変遷をベースとし、多角的な生活とデザインの関係性を明らかにすることを目的として行われたものである。これらの成果をweb上に公開する作業を、2020年度より進めている。

方法

本研究では、翻訳研究を用いて研究が行われた。翻訳研究に関しては、本研究会の所属する学生らによって作成された翻訳文に対して、研究会参加者全員による翻訳検討会議を行い、校正担当による文体の統一作業を経て翻訳案が確定された。なお、翻訳作業と並行して、小説に登場する具体的な人名や地名に関する調査を一次資料を用いて行い、必要に応じて訳注案を制作した。また、web公開へむけて、翻訳案および訳注案の推敲、決定を進めた。それに付随して、本文の理解を補助するため、本文中に出てくる当時のシェーカー教徒の暮らしに関わる事柄について資料を検討して追加調査を行い、アメリカの先行研究においてシェーカーについて書かれた文献に加え、図版からも考察することで、小説のみでは明らかにならないシェーカー教徒の詳細な生活を復元することができた。また、それらの成果をweb公開するにあたって、webサイトを構築し、小説訳文・訳注・研究成果の三つに分類して成果を公開した。以下本研究会が作成したwebページのリンクである。https://believers.nakatani-seminar.org/

結論・考察

小説『The Believers』全24章の翻訳作業が完了した。小説本文の日本語訳文と、本文の人名、地名、シェーカー教特有の用語を中心に文献調査から訳註を作成した。また、これらの成果を公開するために、文章の推敲・校正作業を行った。翻訳作業では先行研究で扱われていたシェーカー教の特異な理念やそれに基づく生活様式について理解を深めたが、訳註の内容からさらに発展させた調査を行ったことで本研究独自の研究成果を得た。例えばそれは以下のようなものである。①シェーカー教の活動初期の規模の拡大は、キャンプ・ミーティングという開拓期アメリカで流行した宗教改革運動をきっかけとしていた。また、シェーカー教はそこで獲得した教徒に対して、段階的に共同体に参加させるような組織構造をつくったことで継続的にその規模を維持した。②労働に対するシェーカー教の態度として、サウス・ユニオン共同体では種子産業が主要産業で、高い生産力を持っていたため、積極的に共同体外部に対して販売を行うための販売ルートや商品開発などの仕組みをつくっていたことが分かった。また、労働効率をあげるために設備や道具の開発などもしており、共同体に水利システムを整備し、そのシステムの一部として洗濯機を発明し、日々の労働に利用した。③シェーカー教の生活で利用する道具や家具のデザインの一例として、ローラー付きのベッドが挙げられ、これは大地との接点を極限まで減らすという信仰の面と、非力な教徒でも容易に家具を移動させられ、掃除や介護が行えるという生活の面でのシェーカー教のデザインに対する意図が表れている。これらの翻訳文・訳註・関連調査の成果はWebサイト上で広く公開した。

英文要約

研究題目

The United Society of Believers in Christ’s Second Appearing, their commune life anddesign: through the translation of The Believers, Part 2

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Norihito NakataniProfessor at Department of Architecture, Waseda University

本文

Shakers had distinctive designs for not only their famous, original furniture, but also theirlifestyle, social structure, tools, and architecture. The purpose of this research is to investigatethe metaphysical aspects of Shaker design and their designing activity. Shakers were a group ofpeople, who were not only known for being utopians and for their extreme doctrine, but also a groupof people who questioned the existing social rules related to family, gender and race, and carefullyconstructed a society to reflect their beliefs. In addition to their unique commune style, what makesthem remarkable is that the action of designing items was a part of their daily activities, toimplement their practice. We think that studying the relationship between their designing activityand their daily life can give us an opportunity to consider how modern communities and families mightbe reimagined, and how designing architecture can contribute to these changes. As a method, we chose to deepen our knowledge of Shaker daily life by translating the novel, TheBelievers, by Janice Holt Giles in 1957. In this novel, Giles wrote about a woman in the late 18thcentury who becomes a Shaker and lives in South Union, one of the Shaker villages in Kentucky.Although it is a historical fiction novel, the story follows and illustrates real historical peopleand events, based on the author’s substantial research of Shaker primary documents, such asbelievers’ journals and diaries, as well as her own visits to the Shaker villages of Pleasant Hillsand South Union. Each chapter reveals unique daily activities, such as non-routine working style,prayer through dancing, and receiving the gift. Furthermore, we conducted research on background information related to the events in the novel,especially architectural designs, to have extensive understanding of Shaker design process and socialcontext. We believe that adding those architectural references to our Japanese translation couldcreate a useful secondary source for Shaker design study. Therefore we have published our Japanesetranslation on our website, and titled it “The Believers, 1957, Translation Project,” with ourresearch articles and annotations.