審査講評

テーマ:「働きものの住宅」

審査員/中村 好文 氏 

撮影:雨宮秀也

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「働きものの家」という今回のテーマに対する応募作品数は159点だった。審査はとりあえずすべての作品を並べて総観するところから開始した。
 そして50作品ぐらい見終わったころから、応募作品の多くが出題者の私が漠然と期待していた作品の方向と微妙にズレていることに気づき、心が翳かげると同時に、ある種の「もどかしさ」を覚えた。そして、残念ながらこの気持はその後、全部の作品をひとつひとつ仔細に見終えたときにも変わることはなかった。
「痒いところに手が届く」という言葉があるが、ほとんどの作品が「痒くないところを掻いてくれていた」と書いたら、審査中の私のモヤモヤした気持が理解してもらえるだろうか?
 応募者は公募テーマをよく読み込み、まずは、出題者がどんな意向でテーマを設定し、どんな作品に期待しているかを忖度するところからスタートするべきだと思うが、その肝心のところに意を注いだ形跡があまり感じられなかったことをまことに残念に思ったのである。私としては、今回のテーマを「拡大解釈」した作品や「深読み」した応募作品にも出会えるだろうとひそかに期待していただけに無念の想いは拭えない。
 一方で、出題者として反省がないわけではない。公募のテーマは作品の方向性を示唆するものなのだから、「手取り足取り」とは言わないまでも、もう少し私の目指す着地点を分かりやすい言葉で明確に伝えるべきだったと思う。
 ‥‥というわけで、今回は最優秀賞に該当する作品はなかったが、審査の結果、以下の9作品を優秀賞、奨励賞、秀作、佳作に選ばせてもらった。

 優秀賞の馬場隆介の「働きものシェルター」は「働きものの家」を「本当に必要としているのは、有事の際にシェルターに住まう人々であろう」という着眼点からスタートした案である。馬場はこの案によって難民キャンプの居住環境を改善したいと考えたのだが、この提案でそれが可能かどうかはともかく、その志に共感した。決して目新しくはないが、仮説シェルターを組み立てるためのジョイントシステムや、小型の風力発電機を集合させた壁面など「自分でできることを何かしなければ」という一途いちずな気持にも好感が持てた。
 もうひとつ優秀賞に選んだ白井雅人の「小さな連関の構築」は「働きものの住宅」を「自然環境の恵みを最大限享受できる働きを持つ住宅」と考えた作品である。この案では建築を構成する部材が「働く」ように考えられている。たとえばバタフライ型の屋根は雨水を集めるためのもの、その屋根を支える支柱は縦樋、欄間は自然換気用、天井は開閉式の水平カーテン‥‥といった具合である。身近な建築部材を生活に役立つ部品と見立てたところは評価に値すると考えた。ただ、ひとつひとつのアイデアには取り立てて新鮮味はなく、どこか借り物の印象はまぬがれなかった。

 安田星香の「Re Light House」に奨励賞を贈る。船舶の航行の安全を司ってきた灯台はGPS の普及により役目を終えることになったが、安田案はその灯台を再利用して、海の男たちを守り、人々にも愛されてきた「灯台」へのオマージュにしているところが私の心をくすぐった。私が「働く建物」の代表格であり、横綱格でもあると考えている「灯台」に着目したことを高く評価したい。ただ、再利用が画家の住まいとアトリエとしたことには賛成しかねる。「灯台」のたたずまいをこよなく愛する者としては、もっと独創的でウィットに富んだ再利用の方法と可能性を探って欲しかった。

 坂本真希の「シャル・ウィ・ハウス」と落合諒の「モノが彩るイエの灰インフラ」の2作を秀作に選んだ。
 坂本案は家の中心にある回転扉が回る度に発電するというもの。この案は今回の応募作品の中では珍しく住宅のプランに真正面から取り組んでおり、その生真面目さを評価した。この作品の主題である発電方法だが、「回転扉」だけでなく、床を歩いたら発電するとか、ベッドで寝返りをうったら発電するとか、トイレの水を流したら水力発電するとか、料理をしたら火力発電するとか、人が日常的に暮らしていく行為のことごとくが発電のシステムに繋がり、電力を自前で賄える案にするぐらい夢のある愉快な案に育てて欲しかった。
 落合案は鹿児島の降灰に焦点を当て、鹿児島の人たちにとっては厄介な存在である灰の処理法を鹿児島庶民の生活の知恵から学び、その方法を巧みに利用しようという案である。きめ細かなフィールドワークとしっかり描き込まれたプレゼンテーションは見応えがあった。ただ、タイトルの「モノが彩るイエの灰インフラ」は何のことか意味不明。他人にもきちんと伝わる言葉遣いを心がけて欲しい。

 以下の4作品を佳作に選んだ。
 山本康二の「Gnomes’ Village」は過疎化の進む地方の斜面にコンパクトな箱型の別荘を点在させる案。暖房や通風の工夫を施した小屋に「Gnome/地の精」と名付けたことと、その小屋の設計に真摯に取り組んでいるところを評価した。
 江邨梨花の「夏、雪室で会いましょう」は雪害で悩む雪国の住宅に対する新しい「雪室」の提案である。「雪室を持つ家」を連続させることで雪国の街並みへの提案になっているところにも魅力を感じた。手描きのプレゼンテーションにこの作者の人柄が感じられて好感が持てた。
 揚翌呈の「私と干潟の故事」は干潟に建てる漁師のための小屋である。小屋を構成するパーツと、そのパーツを組み立てた小屋のパースに目と心を惹かれた。パーツのひとつひとつが健気けなげに働いてくれたら「働きものの家」になる可能性があるにちがいない。「故事」がどういう意味なのかは、結局、分からずじまいだった。
 佐藤稜の「めぐる雨、明日へ生きる」は災害後の応急仮設住宅の住環境を雨の利用によって改善しようとする提案である。自然災害の中にはゲリラ豪雨によるものもあるだろうから、被災者にとっては「恨みの雨」になりかねないが、この案では手のひらを返すように「恵みの雨」にしている。そのアイロニカルな発想を面白いと思った。

Profile

中村好文 / 建築家

1948年 千葉県生まれ。1972年 武蔵野美術大学建築科卒業。
東京都立品川職業訓練校木工科で家具製作を学んだ後、
1976年~1980年 建築家・吉村順三の下で家具デザインの助手を務める。
1981年 レミングハウス設立。1987年「三谷さんの家」で第1回吉岡賞受賞、
1993年「一連の住宅作品」で第18回吉田五十八賞特別賞を受賞。
代表作に「三谷さんの家」「クリフハウス」「伊丹十三記念館」などがある。
著書は『住宅巡礼』『意中の建築』『住宅読本』『普通の住宅 普通の別荘』 『パン屋の手紙』『暮らしを旅する』など多数。
2014年~現在 多摩美術大学客員教授。