審査講評

テーマ:「溶ける建築」

審査員/藤本 壮介 氏

今回の「溶ける建築」というテーマは、とても難しいものだったかもしれない。「溶ける」という言葉の具体的なイメージに引きずられて、消えてなくなってしまう建築や、文字通り街や森に混ざり込んでしまう建築など、直接的な案が多かったのは確かである。そのような最初のインスピレーションから出発して、その先の、建築的な意味での「溶ける」ことを自分なりに組み立てることで、初めてこのコンペのスタート地点に立つことが出来るのだろう。建築から遠くはなれた「こと」や言葉を、自分なりの方法で建築的に思考すること。そしてそこからもう一歩向こう側へ踏み出すことができた案が、大賞と奨励賞を含めた5案である。これらはどれが大賞になってもおかしくない展開だった。

それでも最後に頭一つ抜け出したのは、中川案だった。具体的な敷地を設定し、長さ200mの巨大な構築物をつくるという提案は、一見、溶けるという言葉のイメージからはかけ離れたもののように見える。しかし提案の内容をよく見ていくと、都市的なダイナミックさから家具的なものまで、さまざまなスケール感の融合と解け合いが見事に設計されている。街と路と建築が溶けあうという根底のアイデアは他の多くの提案にも共通するものだが、その出発点からよくぞここまでたどり着いてくれた、という感慨があった。都市の風景としてもとても印象的で、これが実現すれば他にはないとても魅力的な街となるであろう。

奨励賞の4案は、それぞれ全く方向性の異なる案であり、そのことが、今回のコンペを豊かにしてくれるものであった。

黒川案は、311を引き受けながらもそこから未来を見据える視点に感銘を覚えた。防潮堤という人間を超えた巨大スケールに対して、そこに柔らかく寄生するように人間のための場所をつくり出す。自然と人工、巨大さと人間スケール、風景と建築と場所、そして過去、現在、未来を結びあわせる美しい提案である。一見稚拙なこのドローイングが、気負わずにそれでも未来へと向き合っていく作者の前向きで誠実な気持ちを表しているようでいつまでも記憶に残った。

山内案は、うって変わって、街の中の一軒の住宅である。それは普通の敷地を持った箱だが、その射程は住宅を超えていく。敷地の周辺を丁寧に読み取って、その周囲のさまざまな小さな風景と呼応するように、箱にスリットや開口を空けていく。この家に住むことは、常に周囲との関係性と応答しあうことである。確固とした家でありながら、ほとんど家が消えてしまう。美しい壁のラインが印象的でありながら、その壁が無に帰っていくような、とても知的な案であった。

林案は、一等になるのか、まったく選外になるのか、悩んだ案だった。京都の街区の中に、想像上の魔都を埋め込むかのような強力な提案だ。時間と空間をまたぐように、さまざまな特徴をもったストライプが格子状に組み合うことで、意外な風景が次々と脈絡無く展開する。その構想力と表現力に感銘を受けた。

郭案もまた、忘れ得ぬ案であった。祖母の記憶をとどめた家具の配置のみを残し て、それ以外の建築が消え去っていく。その周りを新しい緩やかな境界が柔らか く取り巻き、過去と現在と未来が溶けあっていく。現実の祖母の記憶が重ねられているに違いない、と思えるような芯の強さがあった。不変のものと流転するもの。記憶というかすかなものが不変であり、建築という固く重いものが流転していく。知性と感性が見事に溶けあった案である。

惜しくも佳作となった5点について。朱案は、他にも多く見られた集落的なものによって建築が溶けていくという方向性の中でも、とくに印象に残った案だった。丁寧な書き込みが、単なるアイデアを超えて作者のなかから湧き出てくるものを捉えている。三木案は、正直に言うと、全てを正確に理解出来たわけではない。ただその理解不可能性と巨大な地形を都市に持ち込むというイメージが他にはない案の大きさのようなものを持っているように感じたので最終選考に残った。

西案は、その発想が面白かった。減築というアイデアは他にも多くの案が取り組んでいたが、ここでは使われなくなった建築は、ぱたぱたと開かれ、その痕跡が展開図として周囲に影響を与えていく。家が開き、街に居場所を作る。その平面とも立面ともつかない不思議な場所の出来方は、小さな発明だと言えるだろう。

小野案は、路地性、仮設的な構造物、という意味で、今回の他の多くの案の傾向の一つを代表するものである。しかしここでは、コンセプトに留まらず、具体的な設計として、しっかりと空間を描き切っている点を評価した。

山口案は、とても美しいドローイングが印象的である。今回の応募案のなかでも、建物が消えてなくなる、あるいはかすかに空間が囲いとられているというような、淡い建築のような案が多数あった。そのなかで飛び抜けて美しい案であった。美しく設えられた透明の水平面が、自然現象を捉えてかすかに浮かび上がる。その美しさが「建築」へと繋がるとき、よりすばらしい案になるであろう。

Profile

藤本 壮介

建築家。1971年北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業。2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。
2005年を皮切りに若手建築家の国際的な登竜門であるAR awardを3年連続で受賞し一躍注目を浴びる。
2013年ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・ パビリオンを設計。同年、マーカス建築賞受賞。2012年、第13回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館の展示で金獅子賞受賞。
主な作品は、House N(2008年)、武蔵野美術大学図書館(2010年)、House NA(2011年)他。

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