審査講評

テーマ:「土木と建築をつなぐ」

審査員/宮本 佳明 氏

応募点数の多さもさることながら、傾向の異なる秀作がバランスよく集まった印象がある。お陰で、最優秀作1点に絞り込むことはとても難しく、最終的に優秀賞3点、入賞3点、佳作4点というかたちで賞を選ばせてもらった。
まずは西島君の「塀だけの住宅地」だが、文字通り土木と建築が渾然一体に溶け合って隣地境界線が消えているように見える。確かに、日本の住宅地一般に見られる隣地境界線際の中途半端なヴォイドはもったいない。それらを集約してセミパブリックなスペースを生み出そうという提案である。昔酔っぱらって夜のベネチアを走り回ったら、ちょうどこんな場所に迷い込んだ記憶がある。豊かな空間が先にあって、豊かな経験が誘発される。
矢野君の「整頓工法」は今回の課題に最もよく応えていた作品だと感じられた。たまたまそこに在った石ころ、たまたまそこに在った樹木等を手がかりに建築を立ち上げるというシンプルな提案だ。土木の人が聞いたらきっと怒るかもしれないが、建築にとって土木とは必要悪なのだ。なければないに越したことはない。
田老町では壊れた防潮堤の復旧が計画されているが、それは単なる再建でよいのだろうか。邊見君の「崩壊した防潮堤の先に」は、そんな想いからスタートした作品である。生々しく、じっと見ていると辛くなる提案であるが、「記憶」という問題に鋭く切り込んでいる。ただし、潮位の変化を床レベルとして「記録」するのはやり過ぎではないか。震災の記憶の問題を扱う時、当事者ではない私たちは常に慎重でありたいと思う。いずれにせよ、コンクリート塊が水に流されるということを恐らく私たちは人類で初めて知った。それをしっかりと後世に伝えることは私たち世代の務めである。
似鳥君の「高台の道」は、制度としての「防災集団移転促進事業」に乗るのだろうかという大人の疑問は横に置いておいて、被災地での住宅の高所移転にそのまま使えそうな合理性を持った提案である。ただ、ちょっとコンクリートメッシュの断面はゴツ過ぎるのと、なぜそこを使って水道、電気といったインフラの問題まで同時に解決しなかったのか、そこが残念だ。
高橋君の「はじめて空気に触れたとき」は、どうしても重く考えてしまい勝ちな「土木」を軽く受け流して美しくまとめているところに好感が持てた。高橋君の言い方を借りると「英雄的でない」土木ということになる。そうか、土木とは「器」だったのだと気付かせてくれた作品である。
一方で、鈴木君の「1000mのエンガワ」は土木的縁側の提案である。この思い切った円環状の新しいインフラには建築らしきものがぶら下がっているが、そこをもう少し丁寧にデザインするべきだった。つまり、直交グリッドで構成された都市に、円環という異物を挿入することによって生ずるヘタ地のマネージメントにこそ、デザインテーマが潜んでいたのではないかと惜しまれる。
大和田君の「追憶する集落、丘、または伽藍」は、既存の木造住宅を「型枠」としてコンクリートを打設した時に出来るネガポジ反転の構造体と、その上に改めて寄生する木造住宅というサイクルを繰り返して増殖する集落の物語である。物語そのものには別に必然性はないように感じるが、丘状に堆積を繰り返して更新されていった古代メソポタミアの都市国家ウル、ウルクといった懐かしい名前を連想した。郡司さんの「長い長い筒のなか」も妄想を喚起してくれる。土質の柱状図のように垂直に長く延びた住宅(=豪邸だ!)に住んで、はるか上層に降りつのる雨を想像するのは楽しい。本来、お百姓さんというのは離れた田畑をこのように想うのかもしれないなぁとか、大きな表面積と表面張力の中に大雨をも回収してしまうところが何だか茅葺き屋根みたいだなぁとか、いろいろ妄想が膨らんだ。今飯田さんの「Infrastructure +Architecture」はプレゼンが目を引く。最初、はあ!?という感じだったが、読み込むと、ゲシュタルト、ブリコラージュ、レジリエンス、風景の重層性といった特に震災後、私たちの環境を再構築してゆくための重要な概念が、さらりと4コマ漫画風に説明されていて感心した。根本君の「町に根付く基礎」は、流されず残った基礎の上に面白い風景が展開することを期待させるが、惜しむらくはもう少し基礎毎のコンテクストとそこに必要とされる機能を読み込んでから、建築を生え上がらせて欲しかった。「魚屋の水槽」(笑)はウソだろう。
ここでコメントを書いた以外でも、土木に棲み込むもの、地形を浮き上がらせる定規の役割を土木に求めたもの、基礎とは、インフラとは、敷地境界線とは何かを改めて問い直すもの、巨大防潮堤を瓦葺きにして建築的スケールに近付けようという提案など興味深い作品が多く、それらも奨励作品という形で賞したい。あと、ハート型の道路のシミは好きです。
全体としては、「土木と建築をつなぐ」というテーマを皆さん大変良く受け止めてくれていた。審査していて楽しかったことを最後に付け加えておきたい。

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Profile

宮本 佳明

1984年    東京大学工学部建築学科卒業

1987年    東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了

1988年    アトリエ第5建築界設立

1995年    大阪芸術大学建築学科専任講師

1999年    大阪芸術大学建築学科助教授

2002年    設計組織を株式会社宮本佳明建築設計事務所に改組

2008年    大阪市立大学大学院工学研究科兼都市研究プラザ教授

[主な著書]  

2006年    『「ゼンカイ」ハウスがうまれたとき』(王国社)

2007年    『ケンチク模型。宮本流』(彰国社)

『環境ノイズを読み、風景をつくる。』(彰国社)

2010年    『Grown』(フリックスタジオ)

2012年    『Katsuhiro Miyamoto』(Libria)

[主な受賞]

1996年    第6回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展(共同作品)金獅子賞

1998年    「『ゼンカイ』ハウス」でJCDデザイン賞

ジャン・ヌーベル賞,JIA新人賞

2007年    「クローバーハウス」で日本建築家協会賞,建築士会連合会賞優秀賞

2008年    「『ハンカイ』ハウス」でJCDデザイン賞金賞

2010年    「澄心寺庫裏」で建築士会連合会賞優秀賞