審査講評

テーマ:「ドメスティック・ランドスケープ」

審査員/西沢 大良 氏

生活しているときの光景が見苦しくならないように、生活のための部屋をデザイ ンする。たったそれだけのことが、今日の建築設計にとっては手も足もでない事柄 になっている。とはいえ、相手は生活なのだから、若いデザイナーの方が柔軟に取 り組むのではと考えて、「ドメスティックランドスケープ」(生活風景・室内風景) という課題を出してみた。数多くの力作が集まり、関心度の高さが感じられたが、 どれも同じような限界があった。
 優秀作品賞3点のうち、東山案はある小さなビルを提案している。収納と個室の 中間のようなサービスルームをたくさん考案し、それらを小さなEVシャフトの回り に8層にわたって積みあげて、一種の部屋のビルをつくっている。プランや外観は 示されておらず、展開図(内観)だけを示しているが、そこに描かれたモノの種頬 を見るだけで、周到に計画されているのがわかるようになっている。すなわち各層 の天井高は全て2000ミリ程度で、中央のEVはおそらく床面だけをもち、3畳弱の サイズがある。どの層も-つの用途に限定されていて、下から順にエントランスル ーム・書斎書架室・洗面リネン室・ダイニングキッチン・ソファールーム・眺望 室・ベッドルーム・スペアベッドルームがある。いわば8種頬の生活風景を垂直に 並べたような計画なのだが、コンペのテーマをもとに建物全体を組織しなおしたと ころを評価した。ただし、8種頬の生活風景について、突っこんだアイデアがない。 そのアイデアが各層ごとに示されていたら大賞になっていた。次の宮本案は、ある 書斎の提案である。室内が隈なく逆光状態こなるように、特殊な発光素材で床・ 璧・天井をつくっている。逆光にすると、モノや人物がシルエットの状態で現われ るから、通常より室内風景がうるさくはなくなる。素材についても多孔賀のセラミ ックをあげていて、書斎のモノ(これはかならず小さいという構造的な特徴をもつ) をどこでもバラバラに差し込めるという提案もあり、その首尾一貫性を評価した。 ただし、全体的にブティツク風の美学に依存しているところが致命的である。この 傾向(ブティツク風の美しさ)は、応募案の半数近くに認められたもので、そのた めなぜブティツクではダメなのかをここで説明しておこう。まず「ブティツク」と は、「モノがなければないほど美しくなるタイプの部屋」のことである。それは非常 に特殊なタイプの部屋であり、実はモノの「種類」が少なかった時代に生み出され た部屋であって、その限りで意味をなした代物にすぎない。これにたいして、今日 では『TOKYO STILE』という本にあるような、モノを好き勝手に散らかすタイプ の部屋が出てきているが、それは今のところたんに醜悪なだけであり、だからそれ をなんとかするのがこのコンペのテーマであった。肝心なことは、『TOKYO STILE』のような部屋といえども、モノを取り去ってみればおおむねブティツク風 の紹麗な部屋であることだ。つまりブティツク風の部屋は、こと生活に使われる場 合、たんに『TOKYO STILE』のような醜悪な風景を生みだすだけである。そうし た醜悪な風景を本気でなんとかするには、ブティツクとは別のタイブの美しさを、 本気で追求してみる必要がある。そのためには、今日の生活風景に潜んでいる一定 の構造(ビジュアルとしての構造)を見つけることが必須の条件になるだろう。そ の意味で、斉藤案はあるダイニングルームを提案しているが、その構造に少しだけ カスっている。今日ダイニングルームという部屋は、テーブルやカウンターといっ た水平面にモノを置くように、誰もが知らずに振る舞ってしまう部屋である。した がってこの案は、部屋の中央に広大なダイニングテーフルを-つ置き、室内のすべ てのアクティビティをテーブルトップの上に現わしている。身近な生活風景から一 つの構造を見い出して、それを家具の提案に集約させたところを評価した。ただし、 テーブルの上しかコントロールできていないところが物足りない。ダイニングルー ムには、他にもビジュアルとしての構造がいろいろあるからだ。それが見えていた ら、テーブルトップ以外もコントロールできただろう。
 続く作品賞2点は、惜しいところまでいった作品である。南案はあるワンルーム の提案で、ひとつながりの曲がった部屋を計画している。ワンルームに挑戦した姿 勢には好感をもったが、ただしこのワンルームの場合、どの部分も同じようなスペ ースなのが残念である。各エリアごとにワイド寸法や材質や光量や家具の種類など などについて、もっとつっこんだ提案がほしい。山崎案は、ある下宿部屋の提案で ある。「メルトダウン」というタイトルそのままに、床を特殊なパネルで作って蜃気 楼を立ち上らせて、室内のモノや人の輪郭をぽかすという提案である。現実的には ややナンセンスなところもあり、というよりおマヌケなところがなくもないのだが、 その愚直なアプローチを少しだげ褒めておこう。
 最後の入選6点は、他に多くの類似案のあった6つのパターンのなかから、相対的 に好ましいものを選んでみた。6つのパターンとは、まず床や璧に穴をあけてモノ を隠蔽するタイプ(伊原案ほか)、次に住宅を極小部屋に分割してモノを分散させる タイプ(花本案ほか)、またスクリーンやカーテンでモノや人を隠蔽するタイプ(谷 田案ほか)、鏡などのイリュージョンで事態をごまかすタイプ(中西案ほか)、陰や 光によるマスキング効果に頼るタイプ(小引案ほか)、距離の異常さに依存するタイ プ(片桐案ほか)、の6つである。このうち類似案が最も集中したのは、最初の2つ のパターンであった。したがってその2つについて問題点を1つだけ書いておくと、 どちらもプランに執着しすぎており、しかもプランという図柄の構成に気が散って いるために、生活風景というビジュアルのもつ構造性を見ていない。どうせ図面に こだわるのなら、まだしも展開図や断面図の方がマシだと言っておこう(断面でス ペースをとらえた方が人やモノのビジュアルに気づきやすい)。いずれにせよ入選者 は、自分のアイデアが安易なパターンにハマつていることを、冷静に受け止めてほ しい。ここで本当に目が覚めれば、いずれ型にとらわれない作品を生み出すように なるだろうし、ずば抜けた認識を抱くようにもなるだろう。

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