研究報告要約

調査研究

31-145 阿部 彰

目的

21世紀に入りユニバーサル社会の表現が浸透するようになり、国でも2018年にはバリアフリー新法を制定して、各都道府県に障害者に対して定められている各種の条例の見直しと、さらに充実した整備を求めてきた。その波及効果もあり障害を持つ人々の社会進出も盛んになり、加えて超高齢化社会の到来と合わせてハンデキャップを持つ人のための移動手段として車いすや車いすタイプのモビリティを多く見かけるようになった。

しかしながら最近では車いすに関係する様々な事故も顕在化している。関係する報告資料によると、その多くは車いすの運転の不慣れな操作や構造上のこととされているようだが、道路に目を向けてみると道路側にも改善の余地が多く残されているので

はないだろうか。新しくニュータウンを開発する場合は障害者に配慮した街づくりとして整備されてきたが、多くの自治体では既存の道路構造の勾配や段差を基準に沿って解消することが精一杯のため、特に独りで移動する車いすにとっては通過を躊躇す

る場面が目に付く状況もあり、多様な障害を持つ人々が安心して利用することが難しい例が多い。

戦後復興期から高度成長期における道路の政策課題は、自動車交通問題を解決することに主眼があったが、今世紀に入って社会情勢が大きく変化した。モータリゼーションの技術的変革と超高齢化社会の到来は、道路行政にも方向転換を考える時代になったことを受け止めるべきで、未来の脱自動車社会における道路の課題は歩道にあると考えるべきでは無かろうか。これまでの歩道の質を高める施策は古い建物の建て替える機会を待って拡幅や段差の解消を行なって来たことで、整備完了に到達するまでに長い年月を費やし、その間は不便であっても危険であっても我慢を強いてきた。

しかし道路における自動車の優位性が変化し、歩行者や自転車や次世代モビリティに優先順位が交替すると、車道の車線減や一方通行化などの見直しを行い、歩道を対象にした優先整備の考えを進めることで、短かい期間で人に優しい地域の整備が求めら

れる時代になったと言えるのでは無いだろうか。

スマホを使ったバリアフリーマップの他事例も存在しているが、細かい安全評価とか、通り慣れた道路の工事通行止めや地域のイベントなど、車椅子が通れなくなるような可変性のある情報を伝えてくれるマップは存在していない。

生活圏を形成する道路インフラにおいて、キメの細かい情報を得ることで身体的なハンディキャップを持つ人々の移動が日常的に円滑に行われる環境が整うことが本質的なユニバーサル社会の基本と考え、地域ごとの情報提供マップの作成を提案することを目的としたプロジェクトである。

内容

本調査は、下記に示した特色のあるモデルエリアを選定し、生活圏において車いすを使って移動する歩道や道路が、安全であるかどうかを目視と計測によって調査を実施し、評価マニュアル書に従って安全の度合いの評価を行い、エリア内移動の円滑性

が確保されている状態を確認した調査である。

助成申請時は寒冷多雪地域のバリアフリー状況を調査して評価を行う予定であったが、COVID-19の感染問題が発生したことから、移動の自粛により2月に予定していた調査方針を下記の番町エリアに変更した。

調査実施エリアー東京都中央区日本橋本町・他

この区域は都心の業務エリアに位置し居住エリアとも近く、車いすを利用して生活する人や勤務する姿をよく見かけるエリアである。全体が平坦で車いすが移動する基本的な条件は整っているが、大規模再開発が盛んなことからバリアフリー化や歩道の拡幅整備がしやすい幹線道路に対し、江戸時代から存在した路地など、バリアフリー化し難い道路が輻輳しているエリアでもあり、きめ細かい情報が提供される必要がある対象区域である。

調査実施エリアー滋賀県草津市・南草津

草津市は2006年に国が制定したバリアフリー新法を受けて、2010年3月に「草津市バリアフリー基本構想」を策定し、草津駅周辺と南草津駅周辺地区のバリアフリー化整備が行われた。整備内容もきめ細かく配慮されたバリアフリー化の先進モデルとして調査を実施した。

調査実施エリアー東京都千代田区・番町

都心の高級住宅地と呼ばれる番町エリアは、丘陵部の頂きから傾斜地に向けて広がっている地形のため坂が多いことと、大規模開発に馴染まないことも手伝って道幅も狭い状態で保存されて来た。しかもこのエリアの歩道整備は道路に面する建物の建て替え時に拡幅する手法で行って来たために、何十年も整備が完了しない不具合な状態が放置されている。高齢化が進むことや車社会のあり方が変わる時代を迎え、これからの社会における街づくりの進め方の問題提起となるエリアではなかろうか。

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方法

・評価マニュアル書の作成

プロジェクトの準備的な作業として、独行車いすと電動車いす利用者にも同行を仰ぎ、都内及び近郊の都市を中心に、歩道を車いすで通行するに際しての安全性や不安感などの状態を観察したところ、従来から存在している歩道は、条例整備基準での止むを得ない場合とする緩和的処理が行われている場所が多く、例えば狭い歩道での傾斜部分において勾配を馴染ませるために擦り付け処理が行われているのが一般的で、

そこでは車いすが斜めになり、車道側に向けてスピードも高まり、車いすの安全走行が難しくなる状況が発生し、事故例も多く存在している。

本書においては、各自治体が制定しているバリアフリー関係条例の整備基準を比較検討した結果、本評価マニュアル書では網羅的に整理されている「東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル」を元にして評価作成を行った。

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・評価基準の設定

一人の車椅子利用生活者が日常的に活動する範囲を概ね500〜800 m四方と想定し、一単位エリアにおけるバリアフリー施設(歩道・傾き・スロープ・段差・トイレ・公共設置エレベーター・道路工事・歩道に接する建築工事・放置自転車・置き看板など)を観察および必要に応じた実測調査を行い、「調査における評価マニュアル書」の表記に沿って照合して、独行車いすまたは電動車いすを利用して移動する際に

① 問題なく安全に通行できるもの

② 第三者サポートを受ければ通過可能なもの

③ バリアフリー施設として存在してはいるが通過や利用に支障のあるもの

について調査時の地図上に情報を落とし込み、これらの調査データを分類評価して①を緑色、②を黄色、③を赤色でマークし、MAPアプリへの落とし込みを行なった。

結論・考察

・アウトプットの実例

下に示す地図は、調査を行った東京都中央区日本橋本町エリアの情報を、MAPアプリひとナビTAUG 『doconeel』に掲載している画面である。地図上に記されたマークをクリックすると、該当する位置とその周囲の写真が表示され、状況を確認することができる。赤のマークは勾配や段差が大きく、独行の車いすでは走行が難しいとか、工事のために通過を避けた方が良いという情報である。黄のマークは独行車いすの通過にはエスコートする人が同行した方が安全であると判断するための情報を得ることができる。

MAPを管理できるエリアの大小には差があると考えるが、障害者の生活圏において、本マニュアル書に沿って調査と評価を行なった資料はMAP アプリひとナビTAUG に掲載し、可変情報は担当した各地域の調査チームが登録してメンテナンス責任を持ち、工事の完了や新しいバリアが発生するに従ってマークの色変更などの情報更新を行うことができ、障害者や高齢者が安心した地域生活を営むことができるようになる。

さらにはMAP アプリひとナビTAUG を全国規模に拡大することができれば、この評価結果を繋ぎ合わせることにより、身体的ハンディキャップを持つ人々が安心して移動や交流することで、日常生活が連続的かつ一体的に持続できるような街づくりを目指している。

調査研究の過程で⾒かけることであったが、近年では⾞いすに限らず⾞輪が付いて歩道を移動する装置が多いことが分かる。私達の⼩さな提案活動をご評価くださり、以後も継続的に助成を賜ることができれば有り難いことです。

・調査における考察

評価マニュアル書の記述にあるように、整備基準では車いす通行のための歩道の幅員は2,5 M 以上を推奨していますが移動速度や視線の高さが異なる自転車も歩道の走行が認められている場合では3,5 M以上の幅員がないと、車いす利用者にとって恐怖を感じるものである。

調査を行った草津市の街づくり整備エリアでは歩道上をガードレールで区分けして安全を保っている例がある。3.5 M よりさらに広い場合では、ガードレールが存在しなくても、自然な分離が成立しているように観察できる。

あり方が大きく変わろうとしている現代社会において生活地域圏内の道路については、都市計画行政や道路行政のパラダイムは、速やかに自動車中心主義から人間優先主義への移行を図る時期であろうと考える。

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英文要約

研究題目

Creation project for Stepless society

City QOL guide map for wheelchair users

and Evaluation criteria manual at the time of survey

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Akira Abe

Visiting Researcher

Laboratory of Regional Design with Ecology, Hosei University

本文

Entering the 21st century, the promotion of the system has been promoted, and people

with disabilities have become more active in society. In addition, the increase in social

activities of the elderly has made electric wheelchairs and new movements on the sidewalk

Many devices came to be seen.

In 2006, the government enacted a new barrier-free law, and promoting a policy that

Encourages municipalities to make urban facilities barrier-free.

In line with this policy, Each local government also formulates a basic plan and is making

an urgent effort to improve the road and transportation terminal facilities. However,

it is difficult to make the sidewalks of existing roads, which have been developed mainly

for automobiles, completely barrier-free, and treatment is often performed according to

mitigation conditions. Moreover, maintenance work may be carried out for a certain period

of time, or there may be events such as occupying the road, and it is not easy to safely

move all over the area with a wheelchair.

Therefore, we divided the range that people with disabilities use daily and reflected it

in a special map application as information to protect the safety of movement, and created

a barrier-free map for people with disabilities to go out with peace of mind, and developed

a model of information provision.

It is hoped that such information provision activities will spread as the map app is

evaluated as being effective for social advancement of persons with disabilities.