研究報告要約

調査研究

3-118   川上 比奈子

目的

 本研究は建築と自然科学の融合研究であり、双方の利点をかけ合わせた新規研究である。その目的は、廃棄植物による光合成を活用した光バイオ燃料電池を建築のエレメントに融合させることで、建築自体がエネルギーと酸素を生み出し、植物本来の「色」と「光」を活かした美しい建築空間やプロダクトデザインを創出することである。これらの研究を総称する「光合成建築」は、従来の「建築を建てる」という概念から、いわば「建築を植える」という概念に移行し、緑を破壊するのではなく緑と共生して、地球環境問題の解決に少しでも寄与することを目指している。また、本研究は,太陽光発電パネルのように大きなエネルギーを生むことにはなく、廃棄せざるを得ない植物なのであれば、たとえ微量であってもエネルギーを人間生活に利用し、酸素は自然へ還元することを目的としている。

本課題の目的は、「光合成建築」における建築エレメントの創製および基礎データの収集である。今後の製品化・大型化にむけて主に光量・温度変化と発電量の関係および外観の経時変化について測定・観察し基本データを整えることを目的としている。

 周知のように、サステイナブルな社会では、ゼロ・ウェイスト社会の実現が強く望まれている。これまで、藻類の光合成によって酸素を生成させるプロダクト、微細藻類の光合成をメタンに変換して熱エネルギーを生成させる建築など、光合成と建築を組み合わせた提案があるが、植物の光合成を活用してエネルギーと酸素の両方を生成させる建築の研究はまだなされていない。

 「光合成建築」の特長の一つは、燃料電池が建築のエレメントそのものとして機能することである。一般に建築に関わる燃料電池のほとんどは建物に付加されるあるいは、建物とは分離または独立した状態で機能する。これらに対して、私たちの提案は、窓、壁、屋根など、人間の生活や社会・経済活動のために建設せざるを得ない建築の構成要素自体を光バイオ燃料電池に置きかえ、無理なくエネルギーと酸素を創り出そうとするものである。また、植物の光合成のために透過性のある素材を採用することから、各エレメントは光を通すことができ、デザイン次第で緑色の光に彩られた美しい空間を創出できるという特長も備えている。

 本研究は、廃棄される野菜や伐採樹木の葉による光合成を活用した光バイオ燃料電池を建築エレメントに一体化するものであり、「循環型社会」に求められる美しい建築と「次世代クリーンエネルギー」の創出の両方の実現を目指す試みである。

内容

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図1 「光合成パネル」を適用した建築模型

 本研究では、伐採樹木や廃棄野菜の葉緑体から水素イオンが得られる過程(光化学系Ⅱ:PSⅡ)を抽出し、その光合成によって水を分解し、酸素と糖の代わりに水素と酸素を得ることができる「光合成パネル」を建築模型[図1]で確認した後、窓(小壁)・屋根のプロトタイプとして試作し、実際の製品化に必要な基礎データ、主に光量・温度変化と発電量の関係および外観の経時変化について測定・観察した。特には、PSⅡ窓とPSⅡ屋根から生み出される電圧を調べるためPSⅡ窓とPSⅡ屋根から発生する開放電圧(OCV)の1日での変化を40日間、測定した.

図2と図3は PSⅡ窓 とPSⅡ屋根の経過写真である。PSⅡ窓は東を向いており、水平面に対して垂直に設置されている。一方、PSⅡの屋根は水平面に対して 30 度傾いている。図に示すように、コラーゲン電解質型燃料電池をPSⅡ窓と PSⅡ屋根の上端付近に設置した。また、パネル上部に空気孔を開け、酸素を戻すことができるようにした。この実物大の実験装置によって、 PSⅡ窓とPSⅡ屋根の特性を検討した.

 現在、地球環境問題の解決策として、「廃棄物」を「資源」として捉え直し、リサイクルする「循環型社会」の実現が強く望まれている。周知のように、農業や食品産業では規格外の野菜が廃棄され、建設産業では+A59土地開発のために樹木が伐採され、樹木の幹は建材として使われるが、葉は廃棄される。このように、人間は樹木や野菜などの植物がないと生きていけないにもかかわらず、私たちは日常生活の中で、多くの緑を捨てている。

 エネルギー分野では、次世代エネルギーとして再生可能エネルギーの研究が盛んに行われている。例えば、太陽光、風力、波力、潮力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーを発電に利用する例が多く見られる。しかし、これらのエネルギー発電の試みの多くは、単独で機能するものである。例えば、風力や潮力などの再生可能エネルギー施設は、生活環境から完全に切り離され、大規模構造物として建設される。太陽光発電パネルも、広大な土地に単独で建設されるか、建物の屋上に設置されるのが一般的である。

 本研究の大きな特長は、廃棄される緑を活用して建築の窓や屋根そのものから直接、エネルギーと酸素を生み出し、住空間にも美しい彩りを与えうることである。

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図2 PSⅡ 窓(小壁)の実験経過

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図3 PSⅡ屋根の実験経過  

研究の方法

 本研究では、インテリア・建築デザイン史研究室(川上研究室)と共生機能材料学研究室(松尾研究室)の学生たちが共同で、建築模型およびPSⅡバイオ燃料電池によるエネルギー生成機能を有する窓(小壁)および屋根を実物大で製作し、基本データを収集した。PSⅡ窓(小壁)およびPSⅡ屋根は、コラーゲン電解質型燃料電池と厚さ 6mm のポリカーボネート製中空板で構成されている。PSⅡ含有溶液が漏れないように透明シール材を使用し、コラーゲン電解質燃料電池をポリカーボネート中空板に取り付けた。発生した電圧は、高インピーダンス入力再抵抗の高分解能電子デジタルマルチメーターで測定した。  

PSⅡ含有溶液

廃棄植物(ほうれん草)を pH7.0 のリン酸緩衝液で粉砕し、ろ過して PSⅡ 含有溶液を得た。PSⅡ含有溶液の濃度調整は、ろ過した溶液を pH7.0 のリン酸緩衝液で希釈しクロロフィル濃度が15.6μMとなるように濃度を調整した。次に、得られた PSⅡ溶液に20 W/V% 界面活性剤を蒸留水で希釈し混合しPSⅡパネルの陽極に注入した。 

コラーゲン電解質型燃料電池

コラーゲン電解質燃料電池は、コラーゲン電解質、ステンレス鋼メッシュプレートからなる電極、白金触媒から構成されている。電解質には,ティラピアの鱗を脱灰して得られたコラーゲン膜を使用した。このコラーゲン膜は,廃棄される鱗からリサイクルされたもので,157 ℃までの温度で軟化せずに安定である。コラーゲン膜の厚さは、約135μmである。

光量および温度の測定

PSⅡ窓およびPSⅡ屋根への光量測定は、フォトダイオードを用いて実施した。外気とガラス窓、PSⅡ パネル、スレート屋根で仕切られた内部空間(木造屋根下地を含む)の温度は銅コンスタンタン熱電対で測定した。光量と温度の値は,コンピュータと電子式デジタルマルチメータを用いたデータ収集システムによって取り込まれた。

結論・考察

 本研究では、廃棄野菜から抽出したPSⅡ溶液を透明二層パネルに注入して、窓(小壁)および屋根を実物大の建築エレメントとして試作し、主にこれらの発電量と外観の経時変化について測定・観察した。その結果、PSⅡ屋根パネルは太陽光照射下で18日間発電可能であり、実際に電子機器を駆動でき、PSⅡ窓(小壁)は、40日間発電を維持することができた。PSⅡ窓やPSⅡ屋根は、全光量30 kWh/m2 までは発電能力がほとんど全く落ちず、少なくとも全光量120kWh/m2まではデジタル時計を駆動できる発電量があることが確認され、家庭のエネルギー源として十分に使用可能であることがわかった。加えて、PSⅡ窓は、ガラス窓と比較して室内の温度変動を低減できる可能性が得られた。また、PSⅡパネルのEBTは4.5年と概算され、パネルごとに少量ながら発電できることから、災害時の分散型発電への応用も期待できる。

 さらに、PSⅡ屋根とPSⅡ窓(小壁)は、時間とともに緑から黄色へと徐々に変化する自然色によって、室内空間を彩ることを確認することができた。これらの結果は、PSⅡ窓(小壁)や屋根が、電気エネルギーだけでなく、透明で美しい自然な緑色系の空間を作り出す建築エレメントとして利用できることを示している。これは藻類を窓やカーテンに注入して酸素を生成する海外の先例提案に比べると、酸素だけでなくエネルギーを直接取り出すことができる点に大きな特長がある。また、エネルギー生成においても、植物からメタンガスやエタノールを抽出する複雑なプロセスを必要とする先例とは異なり、PSⅡの抽出過程は非常に簡単かつ安価で効率的であり、しかも棄てられる植物からエネルギーを得ることができるため環境負荷は極めて低い。

 現在、私たちはPSⅡ屋根とPSⅡ窓(小壁)の長期駆動をさらに向上させるため、界面活性剤の種類や組成を検討中である。これらの条件を決定した上で、今後、EPTとコスト、酸化条件、CO2排出量に関する検討を行うとともに、今後は、PSⅡパネルのスケールアップに関して検討する必要があると考えている。

 図4に本研究の将来のフレームワークを示す。本研究で提案する PSⅡパネルは、屋根、窓、壁などの建築要素に適用することが可能であるため、光合成によってエネルギーと酸素を生成する住宅建築の実現へと繋がり得る。また、将来的には、光合成パネルを活用した集合住宅や複合建築が建設され、さらには光合成によってエネルギーを生み出す緑の都市が誕生することも視野に入れ、今後の研究を続けたいと考えている。

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図4 「光合成建築」のフレームワーク

英文要約

研究題目

Prototype creation and characterisation of walls and windows for 'photosynthetic buildings' that generate oxygen and hydrogen energy.

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Hinako Kawakami・Department of Living and Environmental Design, Faculty of Science & Engineering, Setsunan University, Professor

本文

As is well known, the realization of a zero-waste society is strongly desired in a sustainable society. In particular, architectural elements that provide an energy-neutral living environment are at-tractive. This article presents the novel environmentally friendly architectural elements that gen-erate hydrogen energy by the photosystem II (PSII) solution extracted from waste vegetables. In the present work, as an architectural element, the window (PSII window panel) and roof (PSII roof panel) were fabricated by injecting a PSII solution into a transparent double-layer panel, and the aging properties of the power generation and the appearance of these PSII panels are investigated. It was found that the PSII roof can generate energy for 18 days under the sun shining and can actually drive the electronic device. In addition, the PSII window, for which light intensity is weaker than that for the PSII roof, can maintain power generation for 40 days. These results indicate that the PSII roof and PSII window become the architectural elements generating energy, although the lifespan depends on the total light intensity. Furthermore, as an additional advantage, the roof and window panels composed of the semitransparent PSII panel yield an interior space with the natural color of the leaf, which gradually changes over time from green to yellow. Further, it was also found that the thermal fluctuation of the PSII window is smaller than that of the typical glass window. These results indicate that the roof and window panels composed of the PSII solution extracted from waste vegetables can be used as the actual architectural elements to produce not only the electrical energy but also the beautiful, transparent natural green/yellow spaces.