研究報告要約

調査研究

2-139  川井 操

目的

本研究では、「練り土積み」構法の国内外の地域特性を体系的に明らかにしながら、さらに、現地での構法を検証し、改良を加えて、応用可能性を試みることを目的とする。

 

インド・ビハール州、ブッダガヤは、仏教最大の聖地として世界各地から仏教徒や観光客が訪れる観光都市である。ブッダガヤ近郊には集落が点在しており、本研究対象地であるハティヤール村もその一つである。申請者は、これまでにアジア各地の伝統集落・建築を調査する中で、ハティヤール村にて、茅葺き屋根の土造住宅の建物調査をおこなってきた。インドの強い日差しや高温な環境条件にも関わらず、自然素材の厚い屋根や壁によって外気を遮断し、ひんやりとした屋内環境を生み出していた。一方で、その施工期間が長期に及ぶ、雨水による漏水、土壁のひび割れ、経年劣化による腐食といった問題点があり、また観光都市化による建設効率化の影響を受けて、多くの建物はより短期間に建設できるトタン屋根やRCラーメン造+レンガ壁へと建て変わっている。そうした近代的な構法で建設された住宅が集落を埋め尽くし、輻射熱や過剰な空調機能によって住環境は悪化し、プリミティブでサスティナブルな構法・生活環境は失われつつある。さらには、建材として用いられる焼成レンガは農地での生産が一般であり、焼成による土壌生態系の破壊や生産過程で発生する大気汚染の排出がインド国内において環境的な問題となっている。

 

これまでの土壁に関する研究の一環で、日本における左官技術の権威である久住章氏によって「練り土積み」構法で建設された《雨滴聲》(兵庫県篠山市)を訪問し、建設構法や施工期間、材料配合に関するヒアリングをおこなった。「練り土積み」構法は、段上に土を積み上げ、型枠や竹小舞のような下地材を用いず、叩いて突き固めて形を作り出すことが可能であり、英語ではCob-Wallと呼ばれる。歴史的に遡ると紀元前7000年のイラク北部ジャルモ遺跡にも見られる極めて原初的な構法であり、日本では奈良県では灰屋や塀などで現存する。重機に頼ることのない、素人による自力建設を可能とし、曲線的で複雑な造形を生み出すことに特色がある。そして、粘土質の土を採取できる場所あれば、世界各地で応用・実践することが可能であり、地域環境に適した自由度の高い建材である。

 

本研究では、世界各地において、特別な重機や工具を必要とせず、素人でも建設可能であり、自由度の高い形状を生み出す「練り土積み」構法に焦点を当て、発展途上国の貧困地域の一つであるインド・ビハール州(ブッダガヤ、ハティヤール村)にて、現地の「練り土積み」構法の特性を検証し、更新を加えて、実践的に建設を行う。そして、現地で採取できる自然素材を生かしたものづくり、職人の育成、就労環境の提供を生み出し、材料・建設構法における循環型エコヴィレッジを提案することを目指している。

内容

本研究では、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受け、2019年度に現地での「練り土積み」構法に関連した調査・検証(①/②/③)の結果を踏まえ、応用可能性の実践を日本で行った。

 

①インド現地での土の調査

現地にはいくつかの呼称の土(Kewari/Balsundari/Domat)があり、中でも粘土質の高い土であるDomatが住宅に最適であると住民のヒアリング調査から確認できた。また、土の調査を行う中で、自由に土を採取できない状況、所有者との交渉必要性も同時に確認できた。一度はDomatの土の採取できる土地に訪問し、それを用いて構法検証用のモックアップ制作を行う事ができたが、2ヶ月後にはその土地が田畑になり土の採取が不可能となった。

 

②インド現地の「練り土積み」構法の検証とその改良

現地の「練り土積み」構法は、1日に最大高さ300mm-600mmを目安に土壁を立ち上げていく。天候や湿度が土壁の乾燥期間に影響するため、雨季時の施工期間は乾季時の施行期間に比べて長くなることが構法検証を通じて確認できた。そこで、練り土積みによる土が一体的となった土壁ではなく、土をブロック化、乾燥させ、それらを組積してできる土壁の構法検証を行った。「土ブロック組積」構法のモックアップ制作では、焼成煉瓦工場で労働経験のある住人に協力して頂いた。土ブロックを生産することで、資材の貯蔵が可能となり、施工速度の向上が確認できた。また、組積構法の検証では、土と水を混ぜペースト状にしたものを土ブロックの繋ぎ材としたが、乾燥後に亀裂が確認されるなどの課題も確認できた。

 

③建築計画による土壁建築の改良

現地の「練り土積み」による建築物の課題として、土壁が基礎と縁を切れていない点、軒先の出が短い点の大きく2つが挙げられる。そこで、本研究で建設予定をしていた建築物(工房)の建築計画では、壁と地面が切り離された基礎の立上げ、壁を保護するための十分な軒の出を確保した架構を用いた計画とし、土壁を保護するデザインの検討を行った。

 

2020年度の研究では、2019年度に行った土壁の検証結果を踏まえ、現地で採取できる自然素材の見直しを行い、年間で一定量を採取できる藁材料に着目した上で、日本にて下記の項目(A/B/C)に関する実践可能な構法検証、建築計画を中心とした実践を行った。

 

A. 藁を用いたストローベイル構法の応用可能性

ハティヤール村での調査の見直しから、練り土積み構法の改良としてストローベイル構法による構法検証を行った。これまでのストローベイル建築に関連した現地調査では、稲藁の貯蓄形態を模倣し、現地住民と共に試作を制作からその応用として、稲藁を積層させ土を上塗りした壁の試作を制作した。しかし、人力の手だけでは稲藁を圧縮しきれず、壁の強度の弱さが課題点として挙げられた。そこで、改良として圧縮ベーラーを制作し、人力による藁ブロックの試作を行った。

 

B. 構造体である竹を用いた架構の検証

本計画では工房という機能の性質を踏まえ、柱・梁による架構を構造体、壁を非構造材とすることで大断面の建築計画を検討した。柱・梁には現地の流通材である竹を用いて、架構の構法検証を行った。現地の竹は、同州のビハール州北東部に位置するPurniaから輸送され市内で販売されている。竹は常設の建築資材として利用されていないが、全長8.5mの長さ、軽量な点から建設時の足場や仮設建築物に用いられる。

 

C.耐久性のある茅葺き屋根への更新手法

ハティヤール村での調査の見直しから、現地の茅葺きの屋根勾配が低い、茅葺の厚みが少ないといった問題点が確認できた。それを踏まえ、屋根勾配が7寸以上の屋根勾配を持つ竹の架構を制作し、加えて架構の一部に茅葺き屋根の試作を制作した。

研究の方法

①これまでの現地調査の見直し

まず、インド・ビハール州、ブッダガヤにおけるこれまでの調査(対象敷地周辺の建築類型、建材・素材の調査、生活実態の調査・ヒアリング、構法検証)の見直しを行った。

 

②練り土積み構法の改良(研究内容のAを示す)

上述したブッダガヤでの調査の見直しから、人力で圧縮可能な自作の圧縮ベーラー(藁圧縮機)を用いて、藁ブロックの制作を行った。使用する稲藁は、現地で収穫出来る稲藁と同等のサイズのものを使用している。藁ブロックのサイズは、建築計画を元にW(450mm)×D(610mm)×H(350mm)としている。ベーラーに稲藁を充填する際に、稲藁を繊維方向を長手方向のみに充填したもの、長手方向と短手方向の交互に充填したもの、ランダムに充填したものの3種類の藁ブロックを作成した。

 

③その他の構法検証(研究内容のB,Cを示す)

竹架構の構法検証では、現在計画している建築物の一部分(3フレーム)のモックアップ制作を行った。

具体的には、各々のフレームにて竹に加工を施さない3つの接合方法(ガムテープ+ロープワーク/ゴム+ステンレスバンド/ゴム+自在クランプ)の検証、2パターン施工方法(現場組みによるフレーム制作/プレ組みによるフレーム制作)の検証を試みた。また、架構の制作後に美山茅葺の茅葺き職人である中野誠氏を招聘し、茅葺きの実践講習を行った。

 

 

④実施図面の作成・施工準備

モックアップでの構法検証の結果を建築計画に反映し、実施図面の作成を行い、現地での活動再開に向けて準備を行った。

結論・考察

今回、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受け、インド現地での実践を行うことが出来なかったこともあり、これまでの現地での実践のフィードバックを行い、その上で日本でも可能な構法検証を進めてきた。主に藁・竹を用いた構法検証を重ね、建材の持続的調達可能性の高さと現地住人によって再現可能な施工方法を明らかにした。

 

A. 藁を用いたストローベイル構法の応用可能性

圧縮ベーラを用いて人力以上に強度のある藁ブロックの制作が可能である。また、圧縮後に最もブロック形状が安定していたのは、稲藁の繊維方向をランダムに充填したものであることが確認できた。圧縮ベーラーに使用した材料は木材のみであり、現地でも同様のものを制作可能である。一方で、1つの藁ブロックの制作に2人がかりで30分の時間を要した。圧縮ベーラの台数を増やすもしくは、より生産速度の早い圧縮ベーラの開発を行う等、藁ブロックの生産効率を上げる手法を検証する必要がある。

 

B. 構造体である竹を用いた架構の検証

竹架構の構法検証では、施工性、接合部の安定性という観点から検証を進めた。施工速度が最も早かったのはゴム+ステンレスバンドによる接合であったが、ステンレスバンドの平形状によって、接合時の巻き数を増やすことができなかった。ガムテープ+ロープワークによる接合は、ロープの巻き数が多くなる分、施工速度は落ちるが、ステンレスバンドよりも接合部に安定性が確認できた。次に、ゴム+自在クランプによる接合では、クランプのサイズによって竹の直径の寸法が規定されるため、竹自体の径が細くなってしまう点、径の関係で一部でクランプで接合できない箇所が発生した。また、クランプ取付の際に、締め付けによって竹に割れが生じた。これらの検証を踏まえ、ガムテープ+ロープワークが施工性に優れていることが確認できた。今後、経年変化を確認し最適な接合部を検証する必要がある。現場組みによるフレーム制作とプレ組みによるフレーム制作の検証を試み、現場組みでは常時4-5人が常に取付に関わる必要があった。一方で、プレ組みでは、地面にて接合を行うため、少人数でフレーム制作が可能であり、組立時のみ5人いれば取付可能であり、現場組みよりも精度と施工速度の向上が確認できた。

 

C.耐久性のある茅葺き屋根への更新手法

茅葺き屋根の更新手法として、屋根厚を厚くし、屋根勾配を7寸以上取ることで防水・断熱性能の向上を検証した。茅葺き職人の中野氏による実践講習を経て、屋根勾配を8寸-10寸にしないと雨漏れの可能性がある点、また防水シートを用いた防水処理が必要な点などの助言を頂く事ができた。

 

以上の構法検証を踏まえて、建設予定の建築物にフィードバックを行い、再度設計を進めている。

英文要約

研究題目

A Study on the Applicability and Practical Methods of Cob-wall Construction

 in Hathiyar village, BodhGaya, Bihar, India.

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Misao Kawai

University of Shiga Prefecture, Associate Professor

本文

This research focuses on the " Cob-wall Construction" method, which can be constructed by amateurs without the need for special heavy machinery or tools, and which produces highly flexible shapes in various parts of the world. The construction of the building was carried out in a practical manner. The aim of the project is to create a recycling-oriented eco-village in terms of materials and construction methods by creating a working environment, training craftsmen, and making use of natural materials available locally.