研究報告要約

​在外研修

31-303

目的

寺戸 佑希

「物理的なHouse(家)ではなく、家族が住む場所としてのHome(家)は永久的な建築である必要か?」このプロジェクトではプロトタイプによるVertical Livingという新しい住まいのあり方を提案する一方で、住まい方において永久的な建築物としての家(住宅)と一時的な建築物としての家(シェルターやキャンプ用テントなど)の両極の間で新たに「住む」という行為のあり方を模索しました。私は研究対象として「垂直な環境」を選びました。私が提案するプロトタイプは寄生的建築として活用されることで、例えば災害時に地面が利用できない場合、既存の建物の皮膚を拡張して空間を増やす手段として使用することができ、または崖などの過酷な環境でのリサーチや趣味のための一時的滞在空間として使用することができるのではないかという複数のシナリオを想定し提案に至ります。特にロンドンなどの飽和的な都市における代替的居住空間として有効な新たな半永久的住み方を提案する実験的プロジェクトです。

内容

9月末から12月中旬まではシェルターとしてのプロトタイプ設計を行ため、初めにケーススタディとして崖を登るクライマーが使うPortledgeという吊りテントに着目しました。Portaledgeとは数日かかる崖登りの際に毎晩建てては朝、袋へ戻して移動することのできるクライマーにとって簡易の「家」です。Portaledgeの原型はハンモックから進化しました。したがって垂直な場における短期住環境としての吊り構造を原寸大のハンモック、バットハンモックに実際に寝そべり、荷重の分散によるカーブや居心地の悪さ、出入りの仕方などを研究しました。また、建築的にPortaledgeを研究するために素材、構造、重さ、持ち運びの容易さにも着目しました。この吊りテントは主に2つのパーツから構成されており、骨組であるストラップの付いた軽量の鉄パーツと悪天候時にそれをカバーする布パーツの素材によって成り立っています。これらは体が吊られているクライマー(施工者)の環境において脱着が簡単にできるように紐やストラップで既に組み立てやすいようにパーツが繋がっています。Portaledgeは袋から出して建てるまでに10分、再度袋に収めるまで10分と短時間で出し入れが可能です。この釣りテントの研究から学んだ良い点である「安易な脱着システム」「軽量」「持ち運び可能」「環境に優しい」「垂直環境に適したトラスという強構造」という項目をプロジェクトに生かしつつ、難点である「変化自在な空間的自由と機能性に欠ける」「プロのクライマー以外には使用しにくい安全性と市場のアクセシビリティ」「居心地」「制限のある内部空間」という点を次の段階で改良しようと考えました。
またテントという狭小空間の使用方法を空間的に考察するため、他の狭小空間との比較を行いました。どれも一時的居住空間ですが違いがあります。例えば狭小居住空間としてのキャンピングカーは上部と横に拡張することが可能で、かつ移動可能です。一方で阪茂氏の災害時のシェルターはPortaledgeやキャンピングカーよりも一人当たりの面積は大きく、他の2つの住まい方は住み手に選択権があるのに対して阪氏のシェルターでは被災者は他に選択肢のない状態でシェルターに住まなくてはならないことが要因と考えられます。特に被災時には他の住まい方に比べてプライバシーや居心地が優先的空間条件であることが分かりました。このように状況と目的に応じて「ミニマル」の定義が変わり、同じ狭小居住空間でも幅のある順応性が求められることを学びました。

方法

研究を踏まえ、プロトタイプのデザインを始めました。既存のテントの骨組構造から複数の案を考え、実際に模型を作ることで組み立ての難しい工程や素材、構造を研究しました。その中でも特に成功した案が吊られた骨組をベースに、変形とドッキングの可能な建築の皮を使用するオプションでした。三角形の皮はジップによって他の横と縦の三角形に繋がり、どのような内部空間または外見が欲しいかを所有者自身が選択(空間構成計画)し、建てるという極めて自由度の高い案です。また、2学期にはイギリスのDorsetにあるHooke Parkキャンパスにて原寸大の模型を作りました。原寸大の模型ではゼロから模型を作り、その模型に実際に寝そべることでデザイン案の居心地や構造的なパフォーマンスを研究しました。既存の吊りテントと同じ構造であるロープを用いた骨組から始まり、最終的にはロープではなく構造としての布を用いた模型による実験を行いました。 その後再度デザイン案を発展させ、空間の選択の自由度を高めるためにボリュームの組み合わせの起点を1つから2つにし、複数の組み合わせの方法を試しました。特に空間の皮を拡張することで内部空間の縦のつながりをつくり、既存のPortaledgeにはない空間の一体性と連続性を持たせ、内部空間の上下を繋げる方法を試しました。
そして研究してきた内容とデザインの発展をさらに現実可能な案として展開していきます。最初はスロベニアのロンボン山を敷地に一つ目の設計提案をしました。山頂付近の崖に8人規模のプロトタイプの応用シナリオを設定し、Alternative livingのためのデザインを提案しました。設計だけでなく、ファブリケーションの場所や敷地への運搬方法、崖の選定なども考慮に入れました。崖につられた全長約7メートルの釣り構造のテントを一時的滞在空間としてハイカーまたはクライマーが使用できる山小屋として提案しました。横に広がる空間ではなく縦に広がる空間を設けることで新たな空間のつながり方、人の関わり方、さらには崖に限らない縦空間の使用方法を模索しました。また、三角形を基にしたプロトタイプを複数組み合わせることによって生まれる内と外だけではない二時的空間や三時的空間が生まれることや開口の取り方、釣り構造のアンカー部分の位置と数の関係、風や外部空間との関わり、地上の空間と比べて釣り空間では引っ張りの力が優勢であることなどを提案と同時に発見しました。
二つ目の敷地はロンドン都心部のBloombsryエリアです。スロベニアの設計案では既存のPortaledgeが使われる自然の中でプロトタイプを発展させ、実際に提案を敷地に置くことで敷地と設計案の関わりの中で新たな建築的空間の可能性を模索しました。一方ロンドンでは敷地が都市的な背景になったこと、そして外に人が多い環境かつ他の建物に囲まれた場所になったことでスロベニアとは異なる建築的機能や役割が求められることを研究しました。ロンドンにおける応用案ではスロベニアの敷地条件にはない特徴として社会的繋がりが挙げられます。よってこの設計提案では建物に使われる外壁に複数の透明度が違う素材を構造パネル以外の被覆材に使うことで昼間は外部の道や道を歩く人との内と外の繋がりを設け、夜は内からの光が外に出ていくことで建物から出る新たな都市の光のパターンへ導きます。また素材の選び方と配置方法は外と内のプライバシー的視点に加えて1年間の季節を通した朝から夜までの太陽の動きとそれに伴う周辺の建物の影のシミュレーションによって行います。さらにこの設計案の特徴である自由度の高い空間構成を可能にする三角の凹凸のファサードにより、パネル1枚ごとにシミュレーションが異なるために素材が全体的に分散されます。素材の透明度と同時に季節ごとに変わる環境に対してパネルの色を一次的に変えて太陽光を吸収する、換気のためにパネルの開閉可能にする、太陽に面する角度を変える、断熱のために厚みの違うパネルと交換できるようにするシステムも提案しました。このプロジェクトでは施工段階における構造詳細についても考慮し、新たな吊り構造のための接合箇所の提案もしています。特に既存の建物に対する接合部、そして脱着可能かつ再利用可能な接合部を既存の部品のケースステディを行いながら考えました。

結論・考察

今年のプロジェクトでは非建築的なものであるPortaledgeを研究し、垂直である過酷な環境に着目することで最終的には新しい住まいの在り方を提案することに至りました。「永久的構造かつ存在の「家」に対して心の拠り所としての家はどれほど簡易的であることが可能か?」というコンセプトで研究を進めてまいりました。崖を登るクライマーの道具や登頂のシステムから研究を始め、既存の釣りテントの小スケール構造模型を作り構造的弱点などを改良し、良いところは生かしていく形で模型を通してデザインを発展させていきました。このプロトタイプを一般の人々が選び、作り、設置し、撤去し、移動させることのできる建築の提案を目指し、可能な空間の構成を提示し、機能の立面的構成のオプションを与え、違った用途やコンテクストでの使用を可能にすることを目的としました。スロベニア案では自然という敷地背景を利用して外環境との関わり方に焦点をおき、逆にロンドン案では都市という背景において寄生的建築がどのように社会性を持つことができるかに着目しました。建築物をデザインをするだけでなく実際に使うことを想定をすることで内部と外部の両方からの視点を踏まえ、都市的なスケールでは新たな居住空間を設けることが難しい成長を終えた段階の飽和的都市における一時的な寄生的居住を都市における新しい住まい方として提案することでこの設計案の社会的意義を踏まえることができました。
 今年度はコロナの影響で3学期には原寸大の模型が作れなくなるなどの支障が生じました。なので今後は就職をしながらもこのプロジェクトを原寸大模型で実現し、修士卒業設計として今後の設計活動に生かして行きたいと考えています。これから数年はヨーロッパで実務経験を経てから日本に帰国し、ヨーロッパで学んだ事を還元しつつ設計活動を続けて行きたいと考えています。今後もよろしくお願い致します。

英文要約

研究題目

Parasitic Vertical Living
A Hanging Prototypical System for Temporal Settlements

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Yuki Terado
Diploma Course Student
Architectural Association School of Architecture

本文

The project explores the verticality to utilize the vertical surface for a new form of living by questioning “does a home needs to be permanent?”. It aims to negotiate a form of living between temporal and permanent by proposing a dynamic system of a prototype that adapts and changes following the need of users as climbers, flood victims, researches or travellers.
The exploration started from looking at a hanging tent called “Portaledge” for big wall climbers and it moved on to developing a system that inherits its ease to install and deploy, lightweight, portability, feasible geometry and sustainability adding to changeability, expandability and variability which I leaned from a variety of minimal settlements.
The Slovenian proposal explores the context of nature by encouraging interaction with the outside environment. For example, the flexible configuration enables the openings and semi- and quasi- spaces around the proposal. The London Proposal is an application scenario for the urban context where social interaction matters. By analysing solar orientation and possible seasonal performances, the proposal introduces a new way to live in a city as parasitic temporal residents’ community.
This parasitic living is a solution for the urgent or temporal need for space that is adaptable and changeable where the vertical surface is available.

2021年(令和3年度)

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