top of page

研究報告要約

調査研究

3-202

目的

平野 利樹

本事業は、デジタルテクノロジー・マテリアルと伝統技法・素材の複合によって、都市のテクスチャ(肌理・質感)を収集・再構成・再構築するプロジェクトである。東京とロンドンで収集されたテクスチャは、デジタル空間上でレリーフとして再構成され、デジタルファブリケーションと張り子技法によって和紙素材で再び物理空間上に制作される。和紙の表面にはデジタルモデルのテクスチャマップが投影される。本事業はこのような物理空間と情報空間の相互作用を通して既存の都市のテクスチャから新しいテクスチャを生成することで、これからの都市のテクスチャのあり方と新しい建築の美学の発見を試みることが目的である。

内容

本事業は、2021年にロンドンで開催されるロンドン・デザイン・ビエンナーレの日本部門でのインスタレーション作品展示をおこなうものである。日本部門の企画キュレーターであるClare Farrow氏により、本事業申請者である平野利樹が出展作家として招待された。
2021年ロンドン・デザイン・ビエンナーレは「Resonance(共鳴)」を全体テーマとして、世界各国のデザインの最先端の動向を展示によって紹介するものである。全体テーマのもと、日本部門の展示は「Reinventing Texture(テクスチャを見つめ直す)」をテーマに、本事業申請者がインスタレーション作品のコンセプトおよびデザインを考案・制作した。
東京とロンドンの都市空間に点在するさまざまなテクスチャを3Dスキャン技術で収集し、それらをデジタルモデリングで加工・組み合わせ、デジタルファブリケーションと和紙の張り子技法によって高さ約1.8m幅約8mのレリーフとして制作した。展示では、プロジェクションマッピングによってレリーフの表面にはデジタルモデルのテクスチャマップを投影したり、東京、ロンドンで収集したさまざまな環境音を来場者の動きに反応して再生するシステムを組み込むなど、作品と観客とのインタラクティブ性を追求した。
ビエンナーレ会期中の6月16日には、ロンドンデザインビエンナーレ主催で申請者やFarrow氏らによるオンライントークイベントを実施した。その他、関連企画として国際交流基金ロンドン日本文化センター主催による平野利樹のオンライントークイベントが6月3日に開催された。また、建築学会デザイン科学数理知能小委員会・研究集会レクチャー(7月8日)、建築情報学会channel(8月5日)、東京大学権藤研究室レクチャー(8月10日)などのオンラインレクチャ・トークイベントで本事業についての紹介を行った。

方法

フォトグラメトリーによって3Dスキャンしたモデルをデジタル空間上で再構成し、デジタルファブリケーションと張り子技術を用いて和紙を素材として和紙素材で再び物理空間上に制作した。そして和紙の表面にはデジタルモデルのテクスチャマップを投影した。
本事業では、デジタルテクノロジー・マテリアルと伝統技法・素材の複合の実験的試みを積極的に行った。
3Dスキャンからスキャンモデルのデジタル上での加工、それのデジタルファブリケーションを活用しての製作、張り子技法の活用という一連の製作プロセスを確立することができた。通常の建築設計のプロセスとは全く異質であり、さまざまな技術的な困難があったが、それらの解決を通して、建築の領域に資する知見を得ることができた。

結論・考察

これまで建築の領域で一般的ではなかった、3Dスキャンデータという膨大な情報量を持つデータをデザインプロセスの中でどのように取り扱うことが可能であるかについて、多くの知見を得ることができた。建築の領域に限らず、デジタルテクノロジーが日常生活に浸透した後のポストデジタルの時代における美学がどのようなものであるかを探求した点で、芸術文化全体の発展に資することができたと考えている。また、東京の都市像をロンドンに移送しそれらがロンドンの都市像と交わるような展示を、パンデミックによって海外旅行ができない状況下(ビエンナーレ開催時点においても、日本と英国間の渡航は厳しく制限されていた)で行えたことは、東京の文化発信、都市間の文化交流の点においても大きな意義を持つものであったと考えている。一方で、日本から現地の渡航が困難である状況も災いして、日本国内の媒体において本展示の紹介ならびに上記のような意義の発信がほとんど行えなかったことが課題点として挙げられる。
本事業に取り組む中で発見した「情報量の膨大さの美学」をテーマに、創作・研究活動を展開したいと考えている。今回は3Dモデルを張り子で制作する際に発泡スチロールを削り出した形状を型として使用したが、型を使用せずに3Dモデルの複雑形状を制作する技術の開発に取り組みたいと考えている。
申請者は主に建築領域で活動を行い、美術や哲学などの他領域との交流を通して新しい建築の美学の探究することをテーマとしているが、本事業を通して多くの発見があった。本事業は小規模の屋内でのインスタレーション作品であったが、今後建築のスケールでの作品の実現を目指したいと考えている。

英文要約

研究題目

“Reinventing Texture” at London Design Biennale 2021

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

HIRANO Toshiki
Project Assistant Professor, The University of Tokyo

本文

This project is to exhibit an installation in the Japanese exhibition of the London Design Biennale 2021. In the project the artist collected various textures scattered in the urban spaces of Tokyo and London using 3D scanning technology, then processed and combined them using digital modeling, and created a relief with1.8m high and 8m wide using digital fabrication and the papier-mache technique of Japanese paper. In the exhibition, the texture of the digital model was projected onto the surface of the relief by projection mapping, and the environmental sounds collected in Tokyo and London were played in response to visitors' movements, in pursuit of interactivity between the work and the audience.

bottom of page