研究報告要約

調査研究

3-123

目的

久保田 恵里

 2020年から、新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言の発令により、各種イベントの中止が余儀なくされ、移動制限や移動リスクから、リアルでの交流の場が激減した。一方、この間に、在宅でも出来るオンラインを活用した交流の場が増加した。代表例としては、緊急事態宣言の発令下に、デジタルファーストの流れの中で、リモートワークに対応した企業で急速に利用されるようになったWeb会議システムであるZoom(Zoom technologies)、Teams(Microsoft)などがある。本邦における調査によれば、これらのシステムの企業における利用率は、2019年12月に44%から2020年4末には63%まで上がっている。
 また、本研究の対象であるVR(Virtual Reality)技術を活用したバーチャル・コミュニケーションについていえば、2020年に120億ドルであったVRに関わる消費は、2024年までにおよそ730億ドルに成長する予想されており、今後、5年間の成長率は実に54%に達する見込みである。 Metaが2020年後半にリーズナブルなHMD(ヘッドマウントディスプレイ)によるところも大きいが、このHMDの2021年の世界出荷台数は前年度92.1%増加し1,123万台になったという。                      この研究では、デジタルファーストの流れの中で、益々社会的なニーズも多くなるであろうMeeting SolutionsとしてのVRの活用したイベントを対象とし、使われるプラットフォームの整理を行う。対象としては、本邦ならびに、アメリカや日本と異なる技術で発展する中国のVRマーケットの環境の整理を実施する。次に、VRでの会議で得られる没入感(sense of immersion)について、それらに影響を及ぼす因子について調査を実施する。没入感とは、その世界に自分が入り込んだような体験のことで、VRのプラットフォームの特徴である。一方、これらのプラットフォームを利用したVR会議での利便性が低くなる理由として、HMD装着の煩雑さ、VR酔い、テクノロジーへの親和性、VR参加当日の体調などが考えられる。今後、利便性も高く、没入感も高い技術の開発が求められるが、本研究ではコミュニケーションの利便性をあげるために、検討すべきi:VR酔いの原因に関する分析と調査、ii:VR会議実施時の没入感を阻害する因子の調査、iii:没入感を増加し、コミュニケーションを加速するための方策に関する調査を実施する。         

内容

(1)プラットフォームの整理について
1:日本で使われる主なソーシャルVRプラットフォームについては、代表的なソーシャルVRプラットフォームのアプリについて整理する。現状では、アプリごとに世界が展開されており、これらの世界を超えたコミュニケーションやネットワーキングができない。考え方としては、これらを超えた1つの世界となる時が、メタバースであるとする考え方があるが、現状では1つ1つの独立した世界について考察する。VRでのコミュニケーションというと、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し体験することを主に指すが、プラットフォームの中にはHMDを装着せずに、PC画面から入れるような設計もされている。これらは、スマートフォンやPCから容易にアクセスできるものもある。
2:中国においては、インターネットのプラットフォーマーと同様、VRのプラットフォーマーも日本やアメリカとは異なるプレイヤーが台頭している。2021年は、アメリカにおけるRobloxの上場、10月のFacebookが会社名をMetaにあらためたことで、中国人のVR空間であるメタバースへの関心が一気に高まったとされている。学術界においては、清華大学において9月に学術界初となるメタバースの発展研究でレポートを発表されたという。大手テック企業においては、TikTokなどを展開するバイトダンスがVRデバイス大手Picoを買収しメタバースに参入、中国最大の検索エンジンを提供する会社であるバイドゥがメタバースプラットフォームを発表し、市場参入するなど、VR(メタバース)に関わる大きなニュースが1年中賑わった。現状のVRソーシャルのプラットフォーマーである企業とその企業が提供するプラットフォームを整理する。
(2)VR会議への参加者へのアンケートを用いた調査について
 国際的あるいは日本国内におけるVR空間で実施された会議において、参加者のコミュニケーションの在り方についての調査を実施した。先述したように、本研究ではコミュニケーションの利便性をあげるために、検討すべき1.VR酔いの原因に関する分析と調査、2. VR会議実施時の没入感を阻害する因子の調査、3. 没入感を増加し、コミュニケーションを加速するための環境設定に関する調査を実施する。それぞれの調査の対象としたのは、 1. 調査1:10カ国以上から1116名が参加して実施されたVR空間における国際学会への参加者へのアンケート調査の解析と研究、2. 調査2: 211名が参加して実施されたVR空間における国際学会へのアンケート調査、3. 調査3:日本国内におけるVR空間でのイベント(合計16時間)への参加者へのアンケート調査を実施した。

方法

(1)プラットフォームの整理について                     1:日本で使われる主なソーシャルVRプラットフォームについては、それぞれの企業のホームページで公開されている情報やプレスリリースの情報をもとに整理した。また、VRイベントを多く開催している企業、個人にもヒアリングを実施した。
2:中国においても、それぞれの企業のホームページで公開されている情報やプレスリリースの情報をもとに整理した。また、VRに詳しい金融関係の企業、個人にもヒアリングを実施した。
(2)VR会議への参加者へのアンケートを用いた調査について 先述のように、国際的あるいは日本国内におけるVR空間で実施された会議において、参加者のコミュニケーションの在り方についての調査を実施した。テーマとしては、1.VR酔いの原因に関する分析と調査を、13カ国から1117名が参加して実施されたVR空間における国際学会の参加者へのアンケートを実施した。VR酔いは、物理的に体が動いていないのに、実際には動いているように感じる時に起きる症状で、乗り物酔いにも似た症状で、頭痛、吐き気など身体に不快感を伴う症状を起こすため、それを経験した場合、その個人が将来的にVRを利用する上で大きな障害となると考えられる。一方で、VR酔いが発生する理由を解明する機序はまだ明らかになっていないため、その低減を目指すことはVR技術の発展には欠かせないことから、今回の調査を実施した。2. VR会議実施時の没入感を阻害する因子の調査については、欧州を中心として開催されたVR 学会において、医療や生命科学を含む様々な分野の融合と世界における我が国の科学技術の発展を討議する国際学会が開催され、その参加者に対してアンケートを実施した。ZOOMの会場とVRの会場が併設され、参加者は時間によってVRの会場へ入り、参加者とコミュニケーションをした。日本時間17時より23時ごろまでの会議の開催直後にアンケートを実施し、回答を得られた60名を分析した。質問としては、没入感の有無、参加当日の体調、疲労感、テクノロジーに対する知識について、ワクワクを感じたかについて、5段階評価でアンケートを実施し、相関を調べた。3. 没入感を増加し、コミュニケーションを加速するための環境設定に関する調査については、日本国内におけるVR空間でのイベント(合計16時間)への参加者へ22名へのアンケート調査を実施した。合計参加者22名のうち、回答を得られた7名の回答をまとめた。

結論・考察

今回の調査では、新型コロナウィルスの影響もあり、急速に発展しているソーシャルバーチャルプラットフォームを使っての会議空間でのコミュニケーションにつき、その利便性をあげるために、検討すべき(1)VR酔いの原因に関する分析と調査、(2)VR会議実施時の没入感を阻害する因子の調査、(3)没入感を増加し、コミュニケーションを加速するための方策に関する調査を実施した。VR酔いに関しての報告は原著論文の執筆中であるので、その発表を待たれたい。(2)の没入感を阻害する因子としては、先述のように「VR/Techへの慣れ」という結果が得られた。一方、合計8時間のセッションをVR内で過ごした調査(3)への参加者は回答者全員が没入感について「とてもあった」「そう思う」「普通」と回答しているが、「VR/Techへの慣れ」に対して、否定的な回答者も半数いた。このことは、8時間程度のVR体験を経ると「VR/Techへの慣れ」が低くても、VR空間内で過ごす時間が長くなると没入感を得られるようになる可能性を示している。また、(2)と(3)で調査した没入感を阻害する因子、増加する因子については、見る、聞くという感覚器との関連性が高いことが示唆された。さらに、没入感を得られる内部環境として、「相手との距離」が重要な因子として挙げられ、心理学におけるパーソナルスペースという概念がVR空間でも同じく発生していると考えられたことは、興味深かった。
これから加速度的に発展するVR空間でのコミュニケーションは、今後、今までの人類のコミュニケーションのあり方を、国境を超え、時差を超え、正に時空を超えた形で変えていくと予想される。発展途上にあるこの時期に、VR空間における技術を比較し、実際に開催された会議へ参加し、参加者へのアンケートによってその没入感に関する調査をできたことは非常に光栄である。調査(2)、(3)において、いずれの参加者も、VR空間でのコミュニケーションにワクワクしたと回答しており、人間の原動力であるワクワクがこの技術を今後も育てていくことを確信している。

英文要約

研究題目

Survey on the virtual communication platform using the technology of Virtual Reality (VR) in Japan and China

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Eri Kubota / External Advisor, External advisor, Cheiron Initiative, CEO, MediProduce. Inc

本文

Objective:
COVID-19 has created a major impact on our communication styles and especially online communication has increased since 2020. Among those technologies, virtual communication using the technology of Virtual Reality (VR) has been gaining in popularity. This research focused on VR meetings based on two aspects, (1) summarize the major platforms in Japan and China, (2) discuss the factors to increase the sense of immersion in VR, through focusing on three issues: 1: VR sickness prevention, 2: factors that inhibit the sense of immersion during VR and 3: measures to increase the sense of immersion in VR and accelerate communication.

Method/Approach:
(1) To sort and summarize the platforms of social VR apps in Japan and China. All information was obtained from companies’ websites, press releases and interviews with experts in the field.
(2) We conducted the research on style of communication at VR conferences and meetings by utilizing research questionnaires of the attendees. For VR sickness prevention research, we surveyed 1,116 attendees from 10 countries; for factors that inhibit the sense of immersion during VR international conferences, 211 attendees participated; and measures to increase the sense of immersion in VR and accelerate communication 20 attendees participated. The results were summarized from the collected responses.
Conclusions:
The most popular social VR platforms were selected based on their quick speed of development over the last several years in Japan and China. Based on economic scale and market size, China has been growing at an accelerating rate in the VR space. As a result of the questionnaires to the attendees of VR events, an original paper is being prepared on the VR sickness issue. The most influential factor on inhibiting the sense of immersion was whether or not one is accustomed to the technology to work in the VR environment. While the most influential factor to increase the sense of immersion was the distance to the person with whom you were communicating in VR. It is interesting to note that personal space is also true in VR. Both factors that inhibit and accelerate the sense of immersion are related to the senses of sight and hearing.