審査講評

テーマ:「古さの戦略」

審査員/石上 純也 氏 

ⒸCHIKASHI SUZUKI

古さに対して考えることは、過去と未来の両方のベクトルが重なり合う無数の情報を美しく繊細に思慮深く考え結びつけていくことだと僕は思っています。

このことを踏まえた今回のテーマは、建築を考える上ではとても当たり前のことであり、根本的な事柄でもあります。だからこそ非常に難しいテーマであったと思います。それでも、応募してくださった中にたくさんの力作を発見ですることができ、僕自身も勉強させてもらいながら興味深く拝見しました。また、今回のテーマは建築のあり方を様々な方向に拡張していくという意味合いが必然的に含まれています。過去と未来を多元的な視点で重層的に捉えようとしたときには、一つの視点で描かれた理想の建築像が浮かび上がってくることはなく、色々な価値観を踏まえた無数の世界のあり方が平衡を保つように現れてきます。そういう理由で、今回の受賞作品を選定するにあたっては、できる限り異なる価値観の作品をできるだけ数多く選びたいと決めていました。その結果、15点を受賞作品としました。一等から五等までの順位をつけましたが、価値観の多様性という観点からはどの作品も異なる世界を明示しており、今回のテーマの趣旨を本来的なかたちで表現するなら、順位をつけるべきではなかったのかもしれません。それでも、それぞれの作品からは、僕自身が共感できる度合いを微妙な差で感じることができ、最終的には五種類に分類しました。すべての作品に対する講評をしたいところですが、この場では1等案のみにとどめたいと思います。

 

1等案「進化 ~成長する空間~」(望月 シエナ)は、今回のテーマを真正面からシンプルに当たり前のものとして捉え、それでいて、響くような美しさをそのなかに見いだすことのできる作品です。つまり、全作品のなかに存在する価値観をある程度包含できる作品として、共感度が高いものだと僕が感じるものです。建築の発生とその後のあり方を物語を通して空間として描いています。一般的に物語として建築を提案することは、リアリティという観点から難しく感じるものが多いと思います。しかしながら、この作品の本質は、長い時間をかけて建築をつくり続けていくときに、それを実現していく「建築言語」をどのようにデザインしていくことができるかを考察している点です。ひとりの人間の時間のスケールを超えて建築が生きながらえていくためには、多くの人たちが共通の建築言語を理解し、会話をするように、既存の建築をその人たちなりの価値観に置き換えていくことができるかだと僕は考えています。そういう視点でこの作品を眺めたときに、全作品に通ずるとても重要な価値観を見出すことができると思いました。

 

この他の作品も、時間のスケールや敷地のスケールなど、既存の建築のスケールを大きく超えたところでの提案が多々見られました。それらを単なる空想とみなすのではなく、僕としては、建築の捉え方の新たな側面を時代が要求しているのだと強く感じました。

最後に、

今回のような難しいテーマに対し、参加してくださった皆様の勇気と情熱に感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

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Profile

1974 神奈川県生まれ

2000 東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻 修士課程修了

2000-04 妹島和世建築設計事務所勤務

2004 石上純也建築設計事務所設立

2009-11 東京理科大学 非常勤講師

2010-12 東北大学大学院 特任准教授

2014 ハーバード大学デザイン大学院 客員教授

2015 プリンストン大学大学院 客員教授

2016 メンドリジオ建築アカデミー 客員教授

2017 オスロ大学大学院 客員教授

2017 コロンビア大学大学院 客員教授

 

―受賞―

2005 SDレビュー2005 SD賞

2005 キリンアートプロジェクト2005 キリン賞

2008 Iakov Chernikhov Prize 2008 最優秀賞

2008 神奈川文化賞未来賞

2009 contr actworld.award 2009 最優秀賞

2009 Bauwelt Prize 2009 最優秀賞

2009 日本建築学会賞(作品)

2009 BCS賞 建築業協会賞 特別賞

2010 第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 金獅子賞

2010 毎日デザイン賞

2012 文化庁長官表彰 国際芸術部門

2016 BSI Swiss Architectural Award

2019 芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)

2019 OBEL AWARD by the Henrik Frode Obel Foundation

 

 

―出版―

『table as small architecture 』

『plants & architecture 』

『balloon & gardens』

『Studies for The Scottish National Gallery of Modern Art 』

『建築のあたらしい大きさ』

『建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか?』

『ちいさな図版のまとまりから建築に ついて考えたこと』

『FREEING ARCHITECTURE 自由な建築』

 

―パブリック・コレクション―

ポンピドゥ・センター

イスラエル美術館

ニューヨーク近代美術館

 

―主な作品―

2022 8 Villas in Dali (中国 、雲南省大理市)

2022 Chapel of Valley, 谷の教会(中国、山東省)

2022 House of Peace (デンマーク、コペンハーゲン)

2022 Cloud Arch (オーストラリア、シドニー)

2021 Forest Kindergarten, 森の幼稚園(中国、山東省)

2021 Cultural Center, カルチャーセンター (中国、山東省

2021 Polytechnic Museum Reconstruction, モスクワ科学技術博物館の 増改築(ロシア、 モスクワ)

2021 House Restaurant (山口県)

2020 神奈川工科大学 KAIT 広場 (神奈川県)

2019 Serpentine Pavillion(英国、ロンドン)

2018 ボタニカル ガーデンアート ビオトープ 水庭 (栃木県)

2017 Park Groot Vijversburg Visitor Center (オランダ)

2014 Cloud Garden アミューあつぎ8階 屋内広場・託児室・子育て支援センター (神奈川県)

2012 House with Plants (日本)

2008 Yohji Yamamoto Gansvoort Street Store (米国、ニューヨーク)

2008 神奈川工科大学 KAIT 工房 (神奈川県)